浴衣について 

 私たちの地方でも梅雨に入りました。空は灰色の日が続き、外に出れば蒸し暑くジメジメして、うっとうしい季節ですね。

 7月下旬まで、少し我慢して梅雨が明ければ、からっと晴れた日がやってきます。夏祭りや花火大会など目白押しです。そんな時に着る和服はやはり浴衣(ゆかた)ですね。

浴衣(ゆかた)は昔、入浴時に着た湯帷子(ゆかたびら:帷子とは単衣のこと)が後々転じて入浴後に着られる様になり、浴衣(ゆかた)と呼ばれるようになりました。現在では昼間でも浴衣を着ている方を目にしますが、本来の意味からすると、夕方から夜にかけて着るものです。

木綿の浴衣は肌触りもよく、汗をかいても吸湿性に富み、洗濯をしても丈夫で、染色しやすいというメリットがありますが、シワになりやすく縮み安いことなどが欠点です。

・浴衣に撥水加工?

だいぶ以前、大手呉服店の仕事をしていた頃、浴衣に撥水加工(ガード加工)をした反物が仕立て依頼で届きました。お店に連絡して「浴衣にガード加工ですか?」と聞きましたが、そのまま仕立ててくださいとのこと。ガード加工も売り上げの一部で、何でもガード加工をした時代でした。

・バキバキの浴衣

旅館などで用意されている浴衣(またはねまき)で、糊がとても効いていて、バキバキって音が出そうなほど、はがしながら着た経験があります。クリーニング店でも、分かってないお店では浴衣は糊を効かせてビチビチのぺったんこで、かちかちにするお店も存在していました。

昔は洗濯糊というのを使って浴衣を洗った後に浸して、糊気を効かせましたが、今では簡単なスプレーを使うのも一つの手ではないかなと思います。

繰越について③

様々な着付け方法があることは聞いていますが、仕立て屋として、背縫いは背骨に沿わせ、腰骨に脇を合わせることが基本となり、後幅、前幅などの寸法が構成され、体型に合わせた寸法を決めることができます。

「きものは風呂敷のようなもの」と言われた方がいます。風呂敷はスイカのような物も一升瓶のような物も綺麗に包むことができます。きものも多少体型の違った方でも綺麗に着付けができます。特に女性はお端折りがあり、多少、融通が効き、長襦袢の衿に着物の衿を沿わせることができますが、あまりにも繰り越し寸法などが違いすぎると、ねじった着方となり、衿周り・胸回りにシワが出てしまいそうですね。基本としては脇や背の位置を決め、衣紋の抜き加減を決めます。それの繰り越し寸法は、普通体型の方は2cm程度(上がり3cm程度)で、少し肩に厚みがある方は3cm程度(上がり4cm程度)、最大で4cm位です。

最近、着物を仕事で着る方が訪れ、若い頃の着物を着てみると衿がガバガバに空いてしまうという相談を受けました。長襦袢は俗に言う「うそつき」の上着と下着に分かれている2ピースの物で、長襦袢の衣紋の抜き加減は自分の着やすいようにできます。きものの衿が浮いてしまうと仰りました。その方は、ご年配で多少お太りですが、年を追う毎に背中が丸くなり、いつものように着ると衣紋の抜き加減が多くなってしまいました。私どもで、繰越直しを少なくして改善されました。

繰越について②

・繰り越しとは

上図のように平らな場所で前身頃と後身頃の裾を合わせ、山になるところが肩山で、肩山からどれくらい深く衿が付いているかというのが繰り越し寸法です。明治時代頃までは、繰り越しは付いていなかったと言われています。

衿肩明きでもそうでしたが、繰り越し寸法も2種類の寸法表示があります。私のところでは呉服店の仕立てをする際の寸法伝票には、肩山から衿肩明きまでの距離が示されていてます。出来上がりの繰り越しの距離は衿付け縫い代(1cm強)を加えた寸法となります。(衿肩明きについてはここから)

もう一つの寸法表示は出来上がりの寸法で示す場合がありますので、出来上がり寸法か、そうではないのかを確認する必要があります。

また、下図のように衿肩明きを肩山で切り、衿付け縫い代を1cm以上深くする「付け込み」という方法もあります。

現在、女物には繰り越しを付けますが、標準体の男物や子供物には付けません。なので、下図のように繰り越し無しといっても、1cm強肩山より深く衿が付いています。

男性で肥満体の方などは、0.8cm程度から繰越を付ける場合があります。

繰り越しについて①

今から30年以上も前、私が和服裁縫の修行中、納品を任され名古屋の栄や駅周辺などへ、行っていました。仕事柄、どうしても着物姿が目に留まります。夕方の納品時には出勤前でしょうか、俗に言うスナックのママさんなどの「お水系」の方などがよく歩いていました。その姿は髪のセットや化粧以外にも、着物の着方、特に衣紋の抜き加減で、およそ区別できました。ぐーっと衿を後ろに抜いて、背中が見えていたように思えます。それに対して当時の一般の方、特に若い方の着方は現在よりも、それほど衿を抜かず、初々しく、きちっとした清楚な感じでした。着物の柄も当然ですが、着方によっていろんな事が表現できた時代であった様な気がします。

現在では、着付けの仕方が変わってきたのか、自由勝手に着ているのか、着方でその人を想像するのにわけがわかりません。先日、テレビで○○コーディネーター?と称する方の着物姿が目に留まりました。寸法が体型に合っていないのか、無理矢理衿を抜きすぎているのか、左右の掛け衿先が見え、背縫いが背中心に合っていないのか、掛け衿先の高さが揃っていない、ねじれたような残念な着方をしていました。テレビ局の衣装担当の方がちょっと直してあげたりしないのかな?誰も何も言わないのかなって思います。

四六時中、着物姿はどうしても目に留まってしまいます。テレビでは、さすがに演歌歌手の方は、いつも綺麗に着られていますし、落語家さんでも、きっちり寸法が合っているような着物を着ています。中には中古品なのか既製品なのか、寸法が全く合っていない着方をしている方も、目に留まってしまいます。

自由に和服を楽しむことは、私はとても嬉しく思います。でも、「いろんな意味があるよ!」って知ってもらえれば、もっと嬉しいです。

次回からは繰り越しについて細かく説明します。

袖の種類②

・留袖(式服の袖)

女性が着る留袖というと現在では裾に柄をあしらった着物というイメージがありますが、元々、袖の長さを表したものでした。結婚式で花嫁の振袖をナタで切って短くする地域もあったようですが、袖の長さを切り留める(切る)ことから、短い袖の着物の事を留袖と呼んだそうです。

現在では、他の訪問着や付下など式服の基準となる袖丈で、長さは身長の1/3を目安とし、式服の丸みは 2cm(5分)が多いです。

・女物の小紋などの袖について

呉服店の仕事をしていて、かわいい柄や大きな柄なのに、着物の袖丈を一律1尺3寸(49.2cm)としているお店が多いように感じます。長襦袢を着る着物、留袖とか訪問着などとの袖丈を揃えることで、長襦袢が共有できるメリットがあります。

しかし小紋などは、お洒落着なので袖丈はもうちょっと自由であってもいいように思えます。例えば、若い方は少々長めにした方が、小粋な着物になったりもします。大きな柄のものも袖丈を長くすることで雰囲気が変わったりします。丸みの大きさなども変化することで式服とは違った自由な表現が出来るような気がします。

参考資料

  • 「知っておきたい和裁の知識」日本和裁士会編著
  • 「日本和裁新聞」日本和裁士会発刊
  • 「和裁教科書全巻」日本和裁士会発行
  • 「わさい」愛知県和裁教授連盟発行
  • 「新和裁全書」金園社発行

袖の種類①

和服の袖の形は、年齢や職業、フォーマルなものや仕事着など、和服の使い方によって袖の形は変わります。例えば女性用の着物の袖の長さは年齢を表したりします。若い方は振袖を代表する様に長く、老いた方は短くします。筒袖や船底袖などは仕事着として使われる和服の袖となっています。

袖の名称は以下のようです。

丸み(袂丸)の大きさは、半径によって表します。

・振袖

振袖は袖の長さによって呼び方を変えています。一番長いものを本振袖(大振り袖)、順次長い順に中振袖、小振袖と呼んでいます。

・本振袖(大振袖)

一番袖丈が長いのは本振袖(大振袖)で、袖丈が約115cm(3尺)以上のもを指します。「袖は出来るだけ長く」という場合、私たちは身長×0.7を目安に袖丈を算出しています。例えば身長150cmの方が本振袖の115cm以上希望する場合、(150×0.7=105となり)袖を引きずってしまう可能性があります。貸衣装やリサイクル品などの振袖を着られる場合には注意が必要です。

しかし、江戸時代の振袖で袖丈4尺(152cm)とか5尺(190cm)のものが残っているそうですが、当時の日本人は今日ほど身長が高くなかった頃ですので、当然引きずって歩いていたと思われます。一般庶民はともかく、宮中では着物の裾を引きずって歩いていたわけですから、袖を引きずって歩くのがファッションの最先端だったかもしれません。でも、生活するのにはとても不便だったと思います。

・中振袖・小振袖

中振袖の袖丈は90cm~100cm位のもので、小振袖は身長の1/2を目安にして80cm位のものです。

本振袖~小振袖まで様々な袖丈の長さがありますが、この袖丈に対して丸み(袂丸)の大きさも変化させます。現在、一般に本振袖では11.4cm(3寸)で、小振袖では7.6cm(2寸)程度の丸みを付けています。袖丈も丸みも決まりはありませんが、使い勝手や好みであったり、柄の大きさを加味して変化させるのがよいでしょう。

参考資料

「知っておきたい和裁の知識」日本和裁士会編著

「日本和裁新聞」日本和裁士会発刊

「和裁教科書全巻」日本和裁士会発行

「わさい」愛知県和裁教授連盟発行

「新和裁全書」金園社発行

掛衿の位置について

着物の本衿(地衿)の上にもう一枚布を縫い付けてあるのが掛け衿で、その役目は布の補強とか、汚れたら掛衿を取り外し、洗えるという布です。昔はクリーニングも無かった時代で、洗うと言えば縫い目を解き、「洗い張り」だったので、よく汚れる首回りの掛け衿だけを、簡単に取り外せる工夫をしたのでしょうね。長襦袢の半衿も元来、同じ役目でしたが、柄物や刺繍などをあしらった物が出回り、お洒落なものが多くなりました。

今回は、その掛け衿の長さなどについてお話しします。

上図のように現在では、剣先(衽の一番先端)より下に掛け衿先があります。浴衣の場合は、剣先から10cm程度でしょうか。フォーマルな着物では13cm程度です。この着物を着てみると、下のイラストのような状態になります。

十数年前に一部の呉服店より掛け衿をもう少し長くして欲しいとの要望があり2cmほど長くしました。その結果、身長の低い方は特に、それを着てみると下記のような着姿になります。

掛け衿先が、帯の中に隠れてしまう場合があります。もちろん、着る方の身長や帯を締める位置などにもよりますが、掛け衿先が見えていません。最近のテレビコマーシャルの着物姿でたまに見かけます。

昔、一度見たことがある掛け衿が下のイラストです。

掛け衿先が剣先の上にあります。最近の着物では全く見ない掛け衿です。このパターンは、お祭りの衣装にも見られ、衿布の補強や汚れたら外して洗うといった必要最小限の掛け衿の役目を果たしている物ですね。

今では、掛け衿の縫い目を外して掛け衿だけを洗ったりする方は全くいません。殆どの方は、着物を丸々「生き洗い」にしたり、お化粧などで汚れたら部分的にシミ抜きができます。現代での掛け衿の役目はあまり無いような気がします。

以前の掛け衿のブログ

・掛け衿と半衿の話

・掛け衿の話(経験談)

単衣の仕立て⑤

先回は、単衣の縫い額縁まで説明させていただきました。

肩当てについて

今回は、肩当てと衿について説明させていただきます。

肩当ては、衿肩明きの大きく切った部分を補強する布で、以下のようなものがあります。

・ハート型

私達はこの形が一番多く付けています。浴衣やウールなどの透けない物に付けます。

一昔前の浴衣や透けない単衣物などに多く付けられている形です。これもハート型です。

・三日月

絽や紗など透ける物は、以下のような肩当てがあります。

一番スタンダードな「三日月型」です。

上の写真は長襦袢の三日月布です。

羽織やコートなど透ける生地に付ける長い三日月布です。

◆衿について

原則、女物浴衣はバチ衿ですが、着る方の要望に合わせ広衿にする場合もあります。広衿にする場合、衿裏は生地の素材に合わせて衿裏を用意します。浴衣は新モス、化繊は化繊の衿裏、麻と絹物は絹の衿裏というようにします。

女物着物の広衿の縫製方法は、本衿と裏衿で身頃を挟み、標を合わせて縫い合わせます。本衿を先に付けてから、本衿に掛衿を縫い付けますので(このことを掛衿の別付けと言います)、掛衿が汚れた場合、比較的スムーズに掛衿を外すことができ、掛衿のみの染み抜き等ができます。それに対し浴衣の衿は、掛衿を本衿(地衿)に付けてから、衿付けをします。(掛け衿の束付けと言います)

・その他の衿の種類

女物長襦袢:広衿・バチ衿・広バチ衿・田之助衿 男物・子供物(着物・長襦袢):棒衿

単衣の仕立て④

単衣の仕立て④

先回は単衣の着物の衽まで説明させていただきました。

浴衣は「切り額縁」でそれ以外の物は、今回は衽の先端の「縫い額縁」で縫製します。

縫い額縁

1.浴衣(綿物)以外の物(絹・ウール・麻等)には縫い額縁をします。立妻は0.5cm、裾は1cmの出来上がりの場合下図のように裏側に標を付けます。線①②③④は外表に折りを付けます。

2.線③上で裾の出来上がり幅1cm上の点をA、線④上で立妻の出来上がり幅0.5cm内側の点をC、線②と線③の交点をBとし、この3つの点を一直線に結びます。

3.点Aと点Cを中表に合わせ、線上を細かく半返しで縫い合わせます。

4・半返し縫いで縫ったところを縫い割にします。

5.表に返し、額縁先端を整え、くけ代を内側に折り込みます。

6.図のように衽布にくけ付けます。

表側には折りぐけのくけ目が出ます。

単衣の仕立て③

先回は単衣の着物の脇まで説明させていただきました。

今回は、衽(おくみ)付け等を説明させていただきます。

◆ウールなどの衽納め

ウールなどのミシン仕立てや、化繊などの安価なものは前幅の標と衽幅の標を縫い合わせ、縫い代は衽側へ倒します。(浴衣と同様です)

衽納めは前身頃の縫い代を1cm程度折り、衽布にくけ付けます。(浴衣の折りぐけと同様です)

◆正絹(絹織物)の式服などの衽付け縫い目隠し

正絹(絹織物)の式服などは、以下のように縫い目隠しで縫製します。

1. 前身頃の前幅標の4mm外を裏側へ折ります。

2.衽布を手前にし、衽の幅の標と前幅の標を縫い合わせます。

3.衽布側へ被折りをします。

4.下図のように衽布と前身頃を広げ、前身頃縫い代を衽側へ倒します。

5.前身頃縫い代に裾くけ幅分切り込みを入れ、前身頃縫い代を折り、衽布にくけ付けます。絽など布地が薄く透ける場合には、衽布縫い代と重なるように前身頃縫い代を深く折り、衽布にくけ付けます。

次に続きます。