ブログ:和裁屋日記
ブログ一覧
ころもへんの漢字
国内の政治は自民党総裁選挙の話題が多くなり、慌ただしくなってきました。総裁選には十数名の方が立候補していますが、何よりも国民にわかりやすい政治を行ってほしいものです。
その「総裁」には和裁の「裁」と言う漢字が使われています。裁の読み方はサイ、裁つ(たつ)とか裁く(さばく)です。
「裁つ」とは衣服を仕立てるために長い布地を適当に切ることや、布地を切って衣服に仕立てるという意味で、「裁断」とか「裁縫」というように使われています。私の仕事、和裁は和服裁縫、洋裁は洋服裁縫という意味です。
「裁判」で使われている「裁く」では、善し悪しの区別をはっきり決めるという意味。「総裁」に使われている「裁」は物事をきりもりする、また、きりもりする役のことを言います。
他には
- さえぎる。適当なところで切る。また、ほどよく決める。文章や言葉を適切にあんばいすることで、「裁量」という熟語に使われています。
- 適当にカットしてきめた形のこと。「体裁」
- わずかに、はじめて、やっと
という意味もあるそうです。
「裁」を漢字辞典で調べるのには、「ころもへん」で調べます。当たり前ですが、衣服や被服に関する漢字がいっぱい出てきます。
・衫(さん)=単衣・薄物
衫を使った和服では「軽衫:かるさん」があります。袴の一種で中世末に来日したポルトガル人のズボンをまねたもので裁付袴とも言われています。大相撲の呼び出しさんらが履いている袴です。
・衿(えり) 和裁では襟ではなく衿を使います。
その他、和裁の試験や和裁の仕事で目に付く「ころも」が付く漢字ですが、読めますか??一度調べてみるのもいいかも。
- 衵=中古の衣服
- 衽
- 袂
- 袖
- 袢=長襦袢の袢
- 裃=遠山の金さんが最後に着ている和服上下
- 袈裟=僧侶の衣服
- 袿=中世
- 袴
- 袷
- 裄
- 裾
- 褄
- 褌=愛知県国府宮裸祭の衣装
- 襠
- 襞
- 襲
参考資料
- 学研「漢字源」
- コトバンク
- (一社)日本和裁士会編「遠山庫太郎 遺作集」
パリオリンピックが終わりました。
8月11日にパリオリンピックが閉会しました。日本は獲得金メダル20個で海外オリンピックでは過去最多数、アメリカ・中国に次いで3位でした。私の家で盛り上がって見ていたのは、バレーボールや卓球でした。手に汗握る試合展開!もう少し、あと一点というところで惜敗してしまいました。他に気になって見ていたのは柔道です。日本のお家芸とも言われていて、何個の金メダルが取れるかと期待が大きかった種目でした。
そこで気になったのは、柔道着の着方ですが、和服と同じ右衿を先に、左衿を後に着る着方「右前」です。でも洋服は、男女で衿の打ち合わせが違います。外国の柔道選手で「着方なんか関係ないじゃん!」という方はいなかったのかな?対戦選手の利き手によって衿の打ち合わせを変えれば、組み方で有利になるとも思います。で、調べてみたら、一橋大学体育会柔道部のHPに掲載されていました。以下要約しますと
「1996年アトランタオリンピックで田村亮子選手が決勝で当時無名の北朝鮮選手に負けてしまいました。この北朝鮮選手は柔道着を「左前」に着るという奇策に出ることで、組み手争いを優位に進め勝利しました。この件を受け、国際ルールには「右前」に着ることが明文化されました。」とあります。
では、日本ではいつから「右前」に着るようになったのでしょうか。大陸の文化の影響があった古墳時代後期では、埴輪に見られるように「左衽着装法」(さじん)といって男女とも現在の逆の「左前」に衿を合わせていました。
奈良時代となり養老3年(719年)元正天皇が「衣服令」を発令。衿は右を先に合わせる「右衽着装法」(うじん)が用いられるようになり今日に至ります。
私達、仕立屋では左前の部分を上前といいます。例えば上前身頃=左前身頃、上前衽=左衽、上前衿=左の衿というように使い、逆の右前側の部分を下側に着ることから下前と言います。後側は、右後身頃・左後身頃と呼んでいます。この「右前」にすることによって、左側の身頃を引っ張って着ることから、背縫い縫い代(被:きせ)は左身頃側に倒すようになったと聞いています。
また、死装束では生の逆の死であって、生きている人の着方の逆「左前」に着せ、仕立て方も背縫いは右身頃に倒し、縁を裂くという意味で裁断は鋏を使わず、布を裂きます。縫い方は、留める・結ぶ・重ねる・戻るといった意味を嫌い、糸端の玉留め、糸を結ぶ、返し針、縫い重ね、などはせず、縫いっぱなしで作ると言われています。
お昼の情報番組で、どこかのグルメイベントの中継がありました。リポーターの方は浴衣を着ていましたが、襟元ははだけ、裄が長く、幅も合っていなく、だいぶ大きめな感じでした。来場者にインタビューをする場面で小っちゃい子供を連れた3人家族の母親も浴衣を着ていましたが、衿合わせが逆。知らないというのは恐ろしいです。テレビ中継でこんな事を度々、目にする事がありますが、番組の現地ディレクターとか誰か一声掛けることは出来なかったのかと思います。
柔道では、柔道着の着方、裄や丈などのサイズまでルールとして明記されています。一般の方のきものの着方には柔道のようなルールや罰則はありませんが、日本人ならば、日本文化のきものの着方は、知っておいてほしいです。
参考書籍:きもの文化検定公式教本Ⅱ
いろんな幅でも、きものが出来ます。2
先回説明した様々な幅の生地を使って、女物きものを仕立てる場合、どのくらい長さが必要か計算してみました。
標準とした体型は、身長155cmでヒップ95cm位の普通体系です。袖丈は50cmで縫い代を4cmとし、身頃は繰越3cm、縫い代は4cmとしました。(内揚げは殆どない状態です)柄などによって、各パーツの位置を移動する場合や、衿など工夫する部分もありますので、注意して下さい。また、後々、縮んだりして直すことを考える場合は、身頃には内揚げを入れ、内揚げの量と同等の縫い代を衽や衿などに入れておきましょう。
※布幅によっては、裄や身幅が出来ない場合がありますので注意して下さい。
1.小幅物(並幅物)
幅36~40cm位 長さ12m~ 通常の裁断方法です。
2.小幅物(並幅物)
幅36~40cm位 長さ約11m
長さが不足している場合かぎ衽裁ち:両面物(うば衽裁ち:片面物)にします。
衿は摘まむなどして掛衿とし、摘まみ代に別布を挟み込むなどします。
3.大幅物(広幅物)幅70~80cm 長さ6.2m~
4. 大幅物(広幅物)幅70~80cm 長さ6m~
5.ヤール幅 幅90cm位(裄、身幅に制約あり) 長さ4.4m
6. ヤール幅 幅90cm位(裄、身幅に制約あり) 長さ4.6m
※衿を継ぎ足すので工夫が必要
7.普通幅 幅120cm 長さ4.4m(残布が出ます)
8.ダブル幅 幅150cm 長さ2.4m(残布が出ます)
洋服生地などできものを作る場合、裁ち目の処理や裁ち合わせの複雑さがネックですね。やはり和服生地の幅はきものを仕立てるのに合理的な幅になっています。きものを仕立てる場合「縫い代は一切裁ち落とさない」が大原則ですのが、最近の40cm以上の布幅で、痩せている方のきものを作る場合、作り辛いことがあります。お相撲さんのきものを作る場合は、同じ反物を2反用意してもらって、脇や袖付けに足し布をします。その方が合理的と考えられています。
参考資料:新版和服裁縫上巻(社団法人日本和裁士会)
いろんな幅でも、きものが出来ます。
最近、和服の反物以外の生地、手芸店で売られている生地での仕立てが続いてありました。110cm幅の麻と綿の混紡で単衣の着物を、115cm幅の縦縞プリント柄でお祭り用の袴を仕立てました。
帯以外で、きもの等の生地(反物)の幅は、私が和裁の勉強をしはじめた40年ほど前では36cm程でした。その後、ウールアンサンブル生地でキングサイズやクイーンサイズといった少々広めの物が登場し、現在では40cm幅を越える物もあります。私達ではそれらの幅の物を小幅物(並幅物)といい、小幅物の倍の幅の物を広幅物(大幅物)といっています。大幅物は主に裏地(胴裏地)や居敷当て・男物長襦袢や男物羽織裏(額裏)などに使われています。きものなどの生地ではこの2種類の幅の反物を使っています。
和服生地以外で、手芸店には様々な幅の物が販売されています。普通幅として110~120cm幅の物や、ゴルフで距離を示すヤードからきているヤール幅は91cmまたは96cmです。
シングル幅は、28インチの71cm幅の物と36インチ92cmの物があります。また、カーテンやベッドカバーなどに使われるワイド幅やダブル幅は140cm~180cmです。
これらの生地を使ってきものを仕立てる場合、衿などを工夫することが必要です。また、余分な残り布が出てしまう幅の物もあります。
次回は、これらの幅の物を使って女物きものの裁断図を説明します。
帯について⑩(八寸名古屋帯)
名古屋帯の仲間で、八寸名古屋帯(かがり帯・袋名古屋帯)と呼ばれている帯があります。
布幅が30~31cmで綴織・博多織・絽・絽綴・紗・紬などの名古屋帯地で、耳端を合わせてかがります。
生地が柔らかい場合には、好みによって垂のみに垂裏側に帯芯を綴じ付けて入れます。ポイント柄の距離や長さは、先回の名古屋帯と一緒です。八寸帯の垂先は、ほとんどの場合、「わ」のままにし、織り留め(かいきり線)を合わせる方法です。先回の名古屋帯と同様、全体の各寸法バランスをよく確認して垂先を決めることが肝要です。かがる方法は主に以下の3種類です。
・巻きかがり
・スカラップかがり
・俵(蛇腹)かがりかがる箇所は主に以下の3種類です。
・総かがり(全かがり)
垂と手と全部かがります。堅い帯など、手の部分を二つ折りにしにくい帯は総かがりがおすすめですが、好みで手幅を太くすることはできません。
・松葉かがり
垂は全部、手先から38cm位かがります。胴に巻く部分はお好みで太くできます。
垂境には、千鳥かがりをします。
・帛紗かがり(夏かがり・トンネルかがり)
垂先から20cm位、垂境は10cm位かがり、手先は細く三つ折りにしてスカラップかがりをします。手全体をお好みの幅に二つ折りにして締めることができます。