女性が上、男性が下 な~んだ?

女性が上・男性が下?
問題:女性が上で、男性が下。何のことでしょうか?
ヒントは羽織や帯などに関係します。

答えは、羽織の衿に付いていて、紐を付ける乳付け(ちつけ)とか紐付けと呼ばれている小布のたたみ方です。私たちはよく「チ」と言っていますが、そのたたみ方が男女によって違います。

女性は上に乗っている布を上向きに、男性はその逆です。

羽織の乳付け

その他にも、子供物のきものには、衿に紐を付けますが、女の子は縫い目を上、男の子は縫い目を下にします。

子供物きものの紐付け

帯も同じで、女性が締める名古屋帯で、胴に巻く部分は縫い目が上で「わ」が下(袋帯も同様)ですよね。男性の角帯で二つ折りにするものは、女物の逆で「わ」が上です。「わ」が下側だと引っかかって、ささっと刀が差せないという理由からきています。

和服は、無駄づかいをなくし節約した反物の裁断方法だったり、体型が多少変わっても対応できるように作られています。歴史を見ると、女性達が広い帯が締められるように袖付けが短くなり、お端折りが整いやすいように身八ツ口が作られたなど、いろいろな工夫があって、現在のきものの形があります。でも、近年いろんな意味で男女の壁がなくなってきています。女性だって、お端折りのない男物の様なさっと羽織れるきものの方が簡単なのかもしれません。その意味や理由を知ってこそ、使い勝手がよいお洒落で粋なきものができるかもしれませんね。

子供のきもの⑥(肩腰揚げなど)

これまでに子供物のきものを説明しました。今回は、子供のお祝いに着るきものに施す「揚げ:あげ」について説明します。

以前紹介したように、子供の健やかな成長を願い、様々なお祝いがあります。地方によっても異なりますが、主なお祝い着と肩腰揚げなどは以下のようなものがあります。


・お七夜の祝
生が七日目に行うお祝いで、この日に命名(名前を決める)します。赤ちゃんには、産着を着せる習慣があります。産着(うぶぎ)に揚げはしません。


・お宮詣り
誕生後、初めて氏神様に参拝することを「お宮詣り:おみやまいり」といいます。生後30日前後、あるいは100日目に行うところもあります。この時に着せるのが「宮参り産着」と呼ばれる2枚重ねの掛け着です。この掛け着に揚げはしません。子供を掛け着でくるみ、祖母が抱きかかえ、紐をたすき掛けにして背で結び、紐には狛犬の張り子を付けたりします。この時の2枚重ね掛け着は、三歳のお祝いにも使用できます。

・三歳のお祝い:髪置の祝
主に女の子のお祝いです。この頃から、男女異なる髪型をし始めた儀式がのが始まりです。お宮詣りで使用した2枚重ね掛け着を使用する場合が多いです。

上着はきものに、下着についている朱色の飾り袖を取り、長襦袢として使うことができます。きものも長襦袢も肩腰揚げをし、袖丈が長い場合は袖揚げも行います。掛け着は大名袖なので、丸み(袂丸)を付け袖口明きまで縫い合わせます。紐は紐飾りを取り、約7.5cm幅なので身八ッ口(脇止まり)を紐幅の中心位置に縫い付けます。

長襦袢には半衿を付け、肩腰揚げなどを行い丸みを付けます。帯は軽いしごき程度で、上に被布を着せる方が多いようです。

・五歳のお祝い:袴着の祝
男の子のお祝いです。少年へとうつり初めて袴を着ける儀式で、これ以降は男女別々の衣服を身につける習慣があり、この名残と言われています。五ッ紋付きの羽織と袴を着ます。きものと長襦袢には肩腰揚げ、紐を付け、羽織には肩腰揚げ、袴丈によっては袴揚げをする場合があります。袖は、丸みを付けない角袖とします。

・七歳のお祝い:帯解の祝
女の子のお祝いです。この頃になると、紐付きのきものをやめて、帯を締める儀式で、この名残と言われていますが、きものにも長襦袢にも紐を付ける方は多いです。どちらにも肩腰揚げをする場合がほとんどです。三歳・五歳のお祝いでは、腰揚げの位置は、被布や袴に隠れてしまいますが、七歳のお祝い着は隠れないので、腰揚げの高さによってイメージが変わります。腰揚げは待ち針で仮留めをして全体を見ながら位置を決めます。

・十三詣り
関西で主に女の子のお祝いです。地方によっては男子に褌(ふんどし)を贈る褌祝や、女子に腰巻きを贈る腰巻祝などがあり大人へと成長する区切りの儀式として行われ始めたそうです。本裁ちのきものに肩揚げのみ行い、お端折りをしてきます。ちなみに、舞子さんのきものにも肩揚げをします。

・揚げの種類と方法


・腰揚げ
身丈とは、きものの出来上がった長さのことで、着丈とは、きものを着た状態の長さのことです。着丈は首の付け根から床までの長さを基準として体型などによって加減したり、子供の着丈は身長×0.8で計算することもでき、身丈―着丈が腰揚げ分となります。

腰揚げとは、腰あたりで腰上げ分を摘んで縫いとじすることをいいます。
女の子の三歳のお祝いや、男の子五歳のお祝いでは、被布を着たり袴で腰揚げ摘み上がりの「わ」の位置は見えませんが、女の子七歳のお祝いでは、腰上げの位置によってかわいらしさが変わります。昔は比較的腰上げの「わ」の位置が低かったようですが、最近では大人びた着方で腰上げの「わ」の位置が高いようです。
腰揚げ分の量があまりにも多く腰上げの位置が低くなってしまう場合は、二重揚げをします。

・肩揚げの方法
肩幅の中心を摘まみ山として肩揚げをします。肩揚げをする寸法は実際に測ったり、身長×0.4+2cmで計算することもできます。


・袖揚げの方法
着丈(腰揚げが出来上がった寸法)-袖幅/2より長い場合、袖口より4cm程度の位置で袖揚げをします。

参考資料:社団法人日本和裁士会発行 新版和服裁縫下巻
社団法人全日本きもの振興会編 きもの文化検定公式教本Ⅰきものの基本 

子供のきもの⑤(仕立て例)

子供のきものの裁断方法を説明してきました。先回にも説明したように、様々な裁ち合わせ方法があり、大人物からの仕立て替えや余った布などを使う場合もあり、限られた布の長さで、工夫して、裁ち合わせをして、極力無駄を省いた裁断方法ともいえます。


大人用反物一反で、四ッ身アンサンブル(着物と羽織)

例えば、着尺地(きじゃくじ:きもの用反物)は約12mありますが、半反では一ッ身きものと袖無し羽織ができます。また、一反で元禄袖の四ッ身のきものと羽織(アンサンブル)が作れます。
子供のアンサンブル裁ち
・半反物(5.7m)で一ッ身きもの(元禄袖・筒袖)と袖無し羽織(またはちゃんちゃんこなど)


・一反使い四ッ身きものと羽織(元禄袖・筒袖)

子供の和服は寸法の決まりはあまりありません。身丈は子供の着丈(きものを着た長さ)に1尺(約38cm)加え、裄は2寸5分(約10cm)加えて作り、肩腰揚げを繰り返して、数年間着ていました。

最後に、お子様の身長から、着丈と裄寸法を割り出し、肩腰揚げをします。袖揚げは、引きずってしまう場合に行います。いずれも子供らしい揚げの位置で行います。詳しくは、次回に紹介します。

先日、お祖母様が着た付下げのきものと長襦袢を、7歳用のお祝い着に仕立て替えしました。

身頃は、背と衽付けの柄を合わせ、内揚げの位置で裁ち切り、つなぎ合わせています。
背縫いを深くして、肩に柄が多く出るようにしました。

※注 きものも長襦袢も、大人用に戻すことはできません。

子供用きもの(右肩の柄)

胸の柄も多く出るようにしました。
袖丈は裁ち切りいっぱいで60cm程にできました。

子供用着物(前)

子供きものの種類③(二ッ身・三ッ身)

今回は、今ではもう仕立てられなくなってしまった、二ッ身から三ッ身までを紹介します。

・二ッ身裁ち
原則、裏表区別が付かない両面物を使用し、背縫いがつきます。トータルの幅は一ッ身と変わらない(狭くなる?)のと、前幅と衽幅のバランスが悪く、今ではほとんど作られることがありません。
○二ッ身きもの 並幅物3.8~4.5m ※両面物に限る
 身丈約95cm・袖丈約49cm

標準的な寸法の、お宮詣り初着(お祝い着)と二ッ身、初着(袖通し)を重ねてみると、こんな風になります。お宮詣り初着は3歳でも使われるため身丈は長く仕立てます。

・三ッ身
昔、数え年3歳のお祝い(お宮詣り)に初めて背縫いのあるきものを着せる習慣があり、三ッ身を着ましたが、着られる期間が短く、今では用いられなくなりました。三ッ身も原則、両面物を使います。片面物でも作れますが、余分な残布が出てしまい経済的とはいえません。着た時の格好は二ッ身よりもバランスがよいです。
○三ッ身きもの 並幅物4.5~5.7m ※両面物に限る
 身丈約100cm・袖丈約57cm(長袖)

上記の裁断図より袖を取った残りで身頃竹の三倍でできることから三ッ身という名が付きました。

長着以外の三ッ身の和服として袖無し三ッ身被布などがあります。

三歳児用 袖無し被布

先回、一ッ身を紹介しましたが、お宮詣りなどに使われるきもので、まだ需要があります。しかし、二ッ身と三ッ身は、現在、殆ど作られることはありません。その理由として、一ッ身から三ッ身を標準寸法で作った場合、一ッ身は後身頃中心から衽の先までで、47.5cm、二ッ身は背縫いから衽先までが47cm、三ッ身は48.5cmで、トータルの幅も一ッ身と同じような幅です。

標準的な寸法(長袖)のきものを重ねて見るとこんな風になり

一ッ身から三ッ身を並べてみるとこんな風になります。

二ッ身や三ッ身は、階段状に複雑に裁断するので難しいことや、お祝い着ではお宮詣りの一ッ身宮参り初着と、その他では四ッ身が殆どとなりました。二ッ身も三ッ身は着る期間が短いのと、お祝い以外で一般の方は着られないため、ほとんど作られていません。

子供きものの種類②(一ッ身)

子供物の裁ち方について
子供物は一ッ身~六ッ身まであると説明しましたが、その名称は、裁断方法の名称です。(ちゃんと表すと○○○裁ちです)反物を裁断する時に袖を取った残りが、断ち切る身頃の長さの何倍取るかによって、三ッ身は3倍、四ッ身は4倍・・・というように名称が変わります。(一ッ身・二ッ身は別です)
子供物は、大人物からの仕立て替えや余った布などを使う場合もあり、限られた布の長さで、工夫して裁ち合わせをして、極力無駄を省いた裁断方法ともいえます。
※以下の裁断図の布地の幅は普通、並幅で約36cmとしています。
※裁断図の実践は裁断する箇所・点線は折り山です。

・一ッ身裁ち
後身頃に背縫いを付けず、1枚の布幅いっぱい使って後身頃とするのが特徴です。前身頃と衽は反物の1/2幅を使います。およそ2歳まで着ることができます。

一ッ身は生まれてばかりの時に肌襦袢や半襦袢、産着(手通し) 、宮参り産着(宮参り掛け着)、歩き始め肩腰揚げをして着る一ッ身長着(ながぎ=きもの)、一ッ身袖無し羽織(ちゃんちゃんこ・伝知)、一ッ身袖無し被布などがあります。

使用する布の長さは、短い物で約3m使う産着(手通し)から、長く布を使う宮詣り産着大名袖(袷で裏地別)は8m使い、様々な裁断方法があります。(共紐で長い袖で仕立てる約8mから関西地方では9.6mと布を長く使うところもあるようです)

以下の裁断図は、反物の長さが短い順に並べました。


①産着(手通し) 並幅物3m(別途紐布が必要)


 身丈65~70cm・袖丈約19cm(平袖)


②産着(手通し) 並幅物3.4~3.8m(別途紐布が必要)
 身丈68~76cm・袖丈19~23cm(平袖)


③一ッ身きもの 並幅物4m(別途紐布が必要)


 身丈85~90cm・袖丈約25cm(元禄・筒袖)


④一ッ身祝着大名袖(共八掛・共紐) 並幅物8~8.2m


 身丈95~115cm・袖丈約57cm

一ッ身祝い着の宮参り初着(宮参り掛着)には、幅約7.5cmの紐に紐飾りが付きます。また、紋が入ってないものには、糸で背守りを付けるところもあります。

市販されている一ッ身宮参り初着には、下着と飾り袖が付いているものが殆どで、後の女児三歳のお祝いには、赤い飾り袖を取り外して、下着には半衿を掛けて長襦袢として使います。


⑤関西地方の一ッ身祝着大名袖(共八掛・共紐) 並幅物約9.7m
 身丈約117cm・袖丈64cm

参考書籍

  • 愛知県和裁教授連盟 発行「わさい」
  • (社)日本和裁士会編 「新版和服裁縫」
  • (社)日本和裁士会技術指導部・技術研究部編「和裁教科書」
  • (社)日本和裁士会編「知っておきたい和裁の知識」

子供きものの種類①

子供物(児裁ち)と呼ばれるきものの種類は、小さい順に並べると一ッ身、二ッ身、三ッ身、四ッ身、大四ッ身(五ッ身・別衽裁ち)が有り六ッ身は大人物(本裁ち)となります。一ッ身は生後から、五ッ身あたりでは12歳程度まで着ることができます。

  • 一ッ身は生後から2歳頃までで、産着などが作れます。
  • 二ッ身と三ッ身は原則、両面物(裏表がない生地)でないと作れません。三ッ身は片面物でも作れますが余分な残布が出てしまい不経済で、一ッ身~三ッ身の身幅がほぼ同じなので、二ッ身や三ッ身は現在ほとんど作られていません。お祝い着以外に日常着の需要がなくなったことも原因の一つです。
  • 七五三で着る祝着は、ほとんど四ッ身のきもので、身丈と裄を長く作り、肩で摘む「肩揚げ」、胸元から腰で摘む「腰揚げ」を行います。(他に必要ならば袖揚げや肩や腰の二重揚げなどを行います)出来上がりの大きささにもよりますが、およそ3年間くらい着られる様な長さになっています。

後日、子供着物の種類を詳しく説明します。

・キラキラネームの影響?

きらきらネームが流行っていたちょっと昔、読むのが難しい名前も多く、男の子なのか、女の子なのかも分からないことが多く、幼稚園や小学校の先生は四苦八苦していたと聞きます。その頃、七五三の貸衣装屋さんや、写真屋さんがこぞってダイレクトメールを七歳・五歳・三歳がいる家庭へ、男女の着別なく送付したそうです。なので三歳・五歳・七歳の3回、お祝いをするようになった地域があるそうです。


・重たい7歳祝い着

昔々、とあるチェーン店展開する呉服店の支店から「大人用振袖を7歳の祝い着にしてください」と依頼がありました。7歳の寸法で仕立てて、20歳の時には仕立て直してきたいとのことです。店員さんの強いご要望があり、仕立てましたが、丈も幅にも縫い代が多く、肩揚げ、袖揚げもあり、予想通り子供にとって重たい物となりボコボコになりました。しばらくして本店の方より電話があり、そのような場合は、一度本店に聞いてくださいとのことでした。
袋帯もありました。丈も幅も縫い込んで、ほしいとのことでした。織り方にもよりますが、金糸銀糸等のキラキラした糸を使っている場合は特に、その後の縫い跡は消えないので注意が必要です。また、布の厚みにもよりますが、丈も幅もゴロゴロで締めにくくなる場合があります。

・サイズを表す子供物の呼び方?

三ッ身は3歳用と思われがちですが、布の長さによってベストな裁断方法で仕立てます。その呼び方が、一ッ身~六ッ身(大人用=本裁ち)であり、反物の長さを考慮して、子供の成長に合わせて仕立てます。
「子供用きもの(児裁ち)」とは生まれてから12~13歳位までに着るきものを指します。子供のお祭り用法被を買いに行った時、「三ッ身ですか、四ッ身ですか?」と聞かれたことがあります。お祭り用法被などの場合は三ッ身より大きいサイズが四ッ身といった具合に、サイズのことをさしているようです。

参考書籍

  • 愛知県和裁教授連盟 発行「わさい」
  • (社)日本和裁士会編 「新版和服裁縫」
  • (社)日本和裁士会技術指導部・技術研究部編「和裁教科書」
  • (社)日本和裁士会編「知っておきたい和裁の知識」

子供のきものといえば・・

まずは七五三の着物でしょうか。
子供のきものと聞かれて真っ先に思い浮かぶのは七五三のお祝着ではないでしょうか。七五三のお祝いは、11月15日に晴れ着を着て神社などに参拝し、子供の成長を祝う儀式です。3歳のお祝いは女の子で「髪置きの祝」、5歳は男の子で「袴着(はかまぎ)の祝」「着袴(ちゃっこ)の祝」、7歳は「帯解きの祝」と呼ばれています。一般庶民がお祝いするようになったのは、明治時代からといわれています。着るきものは主に四ッ身が主流です。七五三などの祝着の場合は袖丈が長い「長袖」で、普段着には元禄袖(女児)、舟底袖・筒袖(男児)を付けます。

初めての参拝「お宮詣り」
お宮詣りとは、子供が生まれてから1ヶ月後(男児32日目、女児33日目に行うとされています:地方では100日後)に氏神様へ初めて詣でるお祝いの儀式です。そのお宮詣りの時に着る2枚重ねの式服「宮参り産着(うぶぎ)・宮参り掛着(かけぎ)」があります。
主に一ッ身が用いられますが、地方によっては長尺物を使い五ッ身(別衽裁ち四ッ身)などにして作られることもあります。袖は大名袖です。(袖口は広口)

大人の女性へ「十三詣り」
関西方面で、主に女の子のお祝いで「十三詣り」という儀式があります。和服はほとんど大人寸法で作り大四ッ身(五ッ身・別衽裁ち)または大人用きもの(本裁ち=六ッ身)に肩揚げしたものを着て、大人と同様にお端折りをし、袋帯などの大人用帯を締めます。

参考書籍

  • 愛知県和裁教授連盟 発行「わさい」
  • (社)日本和裁士会編 「新版和服裁縫」
  • (社)日本和裁士会技術指導部・技術研究部編「和裁教科書」
  • (社)日本和裁士会編「知っておきたい和裁の知識」

浴衣について 寄り道ばなし

・浴衣は縮みます
着ていると裾が上がってくるので少々長めにして自分用に浴衣を仕立て、一度洗濯したら2cmほど縮み、さらに洗濯したらすね毛が見えてしまうほど縮んでしまいました。


また、毎年のお祭りに着たいと、男性用の浴衣を仕立てました。5年後位にその方から身丈が短くなってしまったと連絡が入り、測ってみると10cmほど縮んでいました。仕立てる際に15cmほど腰あたりの「揚げ」とか「内揚げ」といわれる部分に、縫い代を15cmほど入れ、衽や衿などにも身頃の揚げを伸ばした時に、全体が長くできる縫い代を入れておいたので、身丈を直すことができました。
縮むのを防ぐために「水通し」をしたことがありました。「水通し」とか「色止め」とは藍染めなどの染料が衣類や素肌に付かないよう、ある程度落とす作業のことですが、縮むのを防ぐにはあまり効果がなく、やっぱり綿の物は洗濯をすれば縮んでしまいます。

・男物着物の腰揚げの意味
女性はお端折りがありますが、男性の場合、対丈で着ますので仕立てる際にはできる限り腰あたりに縫い代を入れておきます。生地が縮むからという理由の他に、染め直しなどをして女物に作り替えることができる布地の長さで裁断を行うという意味もあります。

・紺色しかなかった浴衣


昔々は浴衣は藍染めで、紺色の柄のみだったようです。私が和裁を習い始めた40年前は、紺地(藍染め)に赤の花柄といった浴衣が多く、布地は「真岡」で厚くて糊気が効いていて堅く、初心者の私は針がすぐ曲がり、手が真っ青になった思い出があります。運針の力を付けるためにはとてもよい素材でした。縫い糸は綿の「太口」で色は白・赤・紺・黒くらいしかなかった様な気がします。


現在では化学染料のプリントでいろんな色が使われ、生地の素材も薄くて柔らかい物が多く、縫い糸には化繊を使っています。

浴衣について 

 私たちの地方でも梅雨に入りました。空は灰色の日が続き、外に出れば蒸し暑くジメジメして、うっとうしい季節ですね。
 7月下旬まで、少し我慢して梅雨が明ければ、からっと晴れた日がやってきます。夏祭りや花火大会など目白押しです。そんな時に着る和服はやはり浴衣(ゆかた)ですね。

浴衣(ゆかた)は昔、入浴時に着た湯帷子(ゆかたびら:帷子とは単衣のこと)が後々転じて入浴後に着られる様になり、浴衣(ゆかた)と呼ばれるようになりました。現在では昼間でも浴衣を着ている方を目にしますが、本来の意味からすると、夕方から夜にかけて着るものです。

木綿の浴衣は肌触りもよく、汗をかいても吸湿性に富み、洗濯をしても丈夫で、染色しやすいというメリットがありますが、シワになりやすく縮み安いことなどが欠点です。

・浴衣に撥水加工?

だいぶ以前、大手呉服店の仕事をしていた頃、浴衣に撥水加工(ガード加工)をした反物が仕立て依頼で届きました。お店に連絡して「浴衣にガード加工ですか?」と聞きましたが、そのまま仕立ててくださいとのこと。ガード加工も売り上げの一部で、何でもガード加工をした時代でした。

・バキバキの浴衣

旅館などで用意されている浴衣(またはねまき)で、糊がとても効いていて、バキバキって音が出そうなほど、はがしながら着た経験があります。クリーニング店でも、分かってないお店では浴衣は糊を効かせてビチビチのぺったんこで、かちかちにするお店も存在していました。

昔は洗濯糊というのを使って浴衣を洗った後に浸して、糊気を効かせましたが、今では簡単なスプレーを使うのも一つの手ではないかなと思います。

袖の種類⑥

・モジリ袖
関東地方では「鯉口」または「ムキミヤ」と言われているようです。他にも地方によって「ネジポ」「モジリ袖」「三角袖」「トロン」「カモヤ」などという名前があるそうです。筒袖と同じであまり歴史は古くないようです。袖丈は42cm(1尺1寸)前後で袖口は13cm(3寸5分)位です。

・近代袖
近代袖は袖丈46cm(1尺2寸)前後の袂袖と同じですが、丸みが10cm(2寸6分)くらいにしたもので、昭和27年頃から着られています。「近代袖」といっても、丸みが大きく、元禄袖にとても似ています。今となっては聞かない名称です。

・鉄砲袖
鉄砲のようにほそい袖で、洋服の袖?に似た形です。野良着や法被などにも使われているようです。

・細袖
細袖は布を横に折って、袖付けに三角の襠布を付けた袖で「タテッポ」とも言うようです。

これまで紹介した袖の形の中には、同じような形なのに違った呼び名が付いていたり、区別が付かないような物もありますが、先人の方達が和服の使い方をイメージして様々な工夫をして、布地が無駄のないように仕立てて、名前を付けたように感じます。女物の場合、式服以外の街着・遊び着としての袖は、柄の大きさに合わせて袖丈を少し長くしたり丸みを大きくしたりするのも、小粋であり、かわいくもあり、お洒落な着物となります。また仕事着としては、料亭などで着物を使う場合には舟底袖であったり薙刀袖にします。野良仕事ならば筒袖や鉄砲袖、肌着は晒しで作る半袖や奴袖にします。着物の上に羽織る上っ張りなどにも、用途や使い方によって袖の大きさや丸みの形を変えて作るのもおもしろいでしょう。

参考資料
「知っておきたい和裁の知識」日本和裁士会編著
「日本和裁新聞」日本和裁士会発刊
「和裁教科書全巻」日本和裁士会発行
「わさい」愛知県和裁教授連盟発行
「新和裁全書」金園社発行