衿肩明きについて

先日、大島紬の仕立て直しの依頼がありました。お太りになられ、八掛の色がちょっと派手になってきたので、洗い張りをして八掛け取り替えの仕立て直しの依頼です。

早速、解きながら衿肩明きを見てみると、幾度か仕立て直しをされているようですね。洗い張り時に、裂けてしまわないように、糸で綴じて、補強の裏打ちをしました。下の写真は仕立て中の衿肩明きです。

洗い張り品の衿肩明き

写真の通り、3回衿肩明きを切り直していますので、3回以上、仕立て直しているようです。

洋服は仕立て直しが殆ど出来ないのに対して、和服は、縫い代を一切、切り落とさないため、世界中でも類を見ないリサイクル性に優れた衣服で、仕立て直しが可能です。しかしながら、ただ一つ大きく切り込みを入れる箇所は、衿肩明きです。今回は衿肩明きについて、いろんな事をお話ししたいと思います。

(私達が普段行っていることなので、地方や呉服店等によって違います。ご了承ください)

◆繰り越しについて

繰り越しは、女物着物に付いています。通常の男物(とても体格のよい方には少し付けています)や子供物には繰り越しは付けません。

繰り越し

上のイラストのように繰り越しは、肩山(畳山の折)からどれだけ衿が後ろ側にずれているかという寸法で、出来上がり(上がり)寸法と、標付けをする際の繰り越し寸法とがあります。(詳しくは下記注1を参考にしてください)

◆衿肩明きの寸法について

衿肩明きは背縫いからどこまで深く衿が付いているか、という寸法です。

衿肩明きと繰り越し

衿肩明きの寸法は通常9.2cm程度で、体型によって変化します。女物の場合、繰り越しをして着用しますので、首の付け根周りを測ってその寸法の1/4します。男物の場合は繰り越しはしないので首の中心を測って1/4します。少々男物の方が衿肩明きは小さめです。

衿肩明き採寸箇所

寸法の表し方には3種類あり、私達は出来上がりの衿肩明き寸法を使っています。呉服店や、地方によって様々なようです。

3種類の衿肩明き寸法

◆衿肩明きの切り方について

衿肩明きを切る位置ですが、きものを仕立てるときに、唯一、大きく切り込みを入れる衿肩明きですので、リサイクル性を考えて、無地や小紋のきものの場合、前身頃と後身頃の中心(四ッ山)に衿肩明きの切り込みを入れます。

身頃の中心に衿肩明きの切り込みを入れます。

布の中心に衿肩明きがあるので、女物の場合、繰り越しを付けるために、後身頃を繰り越し分(繰り越し×2)ダブらせて標付けをします。出来上がったきものを見ていただくと分かりますが、後身頃の内揚げが前身頃の内揚げより多いのは、そのためです。

付下げや訪問着などの柄合わせがあるきものは、柄合わせをして、肩山が決まり、肩山から繰り越し分下がった箇所に、衿肩明きの切り込みを入れます。また、紋付きは紋上端からの距離から衿肩明きの位置を決めます。

今まで私が仕事をしてきて、衿肩明きの切り方には、大きく3種類の切り方があるように思います。この切り方によって、衿を付けるカーブの度合いも違ってきます。

真っ直ぐ切る衿肩明き

真っ直ぐな衿肩明き

この衿肩明きは、真っ直ぐに切り込みを入れますので、前身頃と後身頃を入れ替えたりする場合に都合がよく、仕立て直す場合に一番有効な切り方です。但し、衿肩明きから剣先(衽の一番先端)まで、衿付けが緩やかに、スムーズにカーブを付けないといけないため、衿肩明きの裁ち切りから2cm程度「付け込み」をしないと、うまく衿が付きません。しかも、縫い代が深いため、布地が吊ってしまう場合があります。

ちょっとカーブを付けた衿肩明き

カーブを付けた衿肩明き

私達が通常、衿肩明きの切り込みを入れている方法です。普通体型の場合、約2cm手前から0.8cmのカーブを付けます。特異体型の場合は少々カーブを大きくします。背では衿肩明き裁ち切りから1cmの深さで衿を付け、衿肩明き先端では0.2cmの深さで縫います。(注1:繰り越し(上がり)は繰り越し+衿付けの縫い代約1cmの寸法です)

肩山まで切る衿肩明き

肩山まで切る衿肩明き

上のイラストのように、肩山まで衿肩明きを切る切り方があります。仕立て直しがやり辛く、前身頃と後身頃を入れ替える場合では、衿肩明きが向かい合って布地が切り落とされてしまう場合があります。今まで仕事をしてきて、直し物などのきものに多いような気がします。

男物の衿肩明き

男物の場合は、繰り越しが付かないので、真っ直ぐ、あるいは0.2cm程度のカーブを付けて衿肩明きを切っています。

以前、きものを日常着にしている方が、「長襦袢の衿と着物の衿のそぐいが悪い」とおっしゃっていたので、着物と長襦袢を見てみると、衿肩明きや衿の付け方が違っていました。長襦袢の衿付けを直しましたが、同じ仕立屋で作ったものならば、同じ衿付けのカーブで付けますので、そぐいよく着られると思います。

また、浴衣を持ってこられた方に、「衿は角張って付けないでね」と言われたことがあり、大きくカーブを付けて衿肩明きを切って、衿付けをしました。

些細なことかもしれませんが、着る方にとって居心地悪い着物とならないように、寸法見本は出来るだけお預かりするようにしています。

着物の寸法について02(鯨尺)

仕事場を整理していたら、曲尺(かねじゃく)の2尺物差しが出てきました。

和裁で使用する長さは鯨尺(くじらじゃく)ですが、同じ尺・寸・分という単位なので間違えて購入したのかな?

鯨という名前が付いているのは定かではありませんが、鯨のひげから作られたともいわれ、その名前が付いたそうです。尺・寸・分・厘という単位を使います。

それに対して建築で使われるのは、曲尺で1尺は30.3cmです。柱の太さなど、長さや面積に使われています。

もっと身近なものでは、大人のお箸の長さで、7寸5分で約23cm。子供の箸やお弁当に付いている短い箸では、1時間も使っていると肩がこってしまうそうです。その長さは、大人の肘から手首のくるぶしまでとか、また、お正月に使う「祝い箸」の長さは8寸で、八で末広がりの意味から8寸だそうです。私達の生活の中に、昔から伝わる長さが今もなお、根強く息づいていますね。

さて、和裁の鯨尺の1尺は37.9cmです。

下の写真のように、鯨尺と曲尺の2尺物差しを並べてみると、鯨尺の8寸は30.3cmで曲尺の1尺にあたります。鯨尺1尺6寸が曲尺の2尺となります。

何か、ややっこしい(-_-;)

曲尺と鯨尺の2尺を並べてみました。

◆和服の寸法は、鯨尺が基になっています。

和服の長さも、昔から変わらず、今なお使っています。私は、名古屋で和裁の修業をしましたが、和服の寸法は鯨尺で記入されいるものが殆どで、換算表を使ってcmに換算し、cmの物差しを使って縫製をしていました。和裁を勉強し始めた私にとって、換算表を見ることは面倒とは思いましたが、慣れてくるとよくある寸法、袖口は6寸=22.7cmというようにすぐ思い浮かぶようになり、鯨尺の長さを覚える煩わしさもなく、すんなりと和服の各部分の長さを感覚的に身に付けることが出来ました。

以前のブログ(着物の寸法について01)にも載せたように、昔は並寸法というのがありました。その中で昔から変化せず、通常に決まっている寸法があり、もともと鯨尺の寸法が基となっています。

イラストの衿は、バチ衿です。

女物着物の場合

袖口明き     6寸(22.7cm)

広衿幅   衿肩回りから衿先まで真っ直ぐで3寸(11.4cm)

バチ衿幅  衿肩回り1寸5分(5.7cm) 剣先1寸7分(6.5cm)衿先2寸(7.5cm)

上記以外で、体型によって変化させますが、ほぼ決まっているのが

袖付け   5寸5分~6寸(20.8~22.7cm)

衽下がり  5寸5分~6寸(20.8~22.7cm)

身八ッ口  3寸5分~4寸(13.3~15.2cm)など・・・・・

残りの寸法の身丈・裄(袖幅・肩幅)・身幅(前幅・後幅)などは、体型によって細かく寸法を変えます。

修業を終え実家に戻りましたが、実家では全て鯨尺で仕立てを行っていましたので、現在では鯨尺を使用しています。6年間、鯨を換算してcmに変えて仕事をしてきた二刀流?ではありましたが当初、戸惑うことがありました。背縫いは1cmという長さが身についていたせいか、鯨での背縫いは通常2分5厘の9.5mmで「ちょっと細いよなあ~」、3分では太いと感じ、背縫いはcmの物差し、あとは鯨というように使い分けていました。

◆寸法の確認方法

お客様の寸法を割り出したり、体型に合わなくなった着物の身幅の確認、呉服店からいただく伝票の身幅(前幅・後幅)など、必ず確認をしています。

例えば、一番太い箇所がヒップ100cmの方で、前幅が6寸5分・後幅が8寸の場合、ヒップ100cmなので衽幅(合褄幅)は4寸2分程度だとすると、大ざっぱではありますが、着付けの基本の衽の立褄が脇線に揃うような着付けをし、立ったり座ったり動作をしやすくする緩みが、どのくらいあるのか確認の計算をすると

きもの身幅の構成

まず、前幅+後幅×2+衽幅(合褄幅)の計算を行います。

65+80×2+42=267(2尺6寸7分)でこれをcmに換算すると、

267×3.79=1011.93となり身体を巻くきものの幅が約101cm

ヒップ100cmと比較して緩みが1cmしかないという結果となり

「この寸法では狭く、もう少し身幅を広げた方が着やすい」となります。

緩みは体型や着物を使うTPOによっても異なりますが、4cm以上はあった方がよいのではないかと思います。

◆鯨を使い始めて、困ったのは、

名古屋帯を仕立てる場合、修業先では並寸法の8寸上がりの場合、垂幅は30.3cmに出来上がるようにして、垂幅の半分の手幅は換算表を見ると4寸が15.2cmとなっていますので、その寸法に出来上がるように標を付けます。帯芯は30.3cmで裁断しますが、手の帯芯幅は半分に折って15.15cmとなります。結果、手の出来上がり幅より0.05cm帯芯が狭くなり、この0.05cmの差がちょうどよく手の部分の中に入る帯芯の幅としっかりと身についていました。これが鯨尺で標付けをして真半分になってしまうと0.05cmの差が無くなってしまい、何となく芯がダブってしまうと感じました。このことはcmと鯨の換算の誤差で、実際には、名古屋帯の場合では生地や帯芯の厚み、素材(透ける物か否か?)によって微妙に標付けや帯芯の幅を考慮することが必要になってきます。

土地や建物に使われている「坪」は私にとって解りやすく、この土地50坪だねといわれれば何となく想像が付きますが、165.3㎡とか言われると「?」ですね。着物の袖丈とか測らなくとも、ぱっと見で「長いね・短いね」と感覚で感じ、1尺3寸位かな?なんて思ったりもします。

修行中はcm物差しの1mmの細かなメモリを見て標を付けたりしていました。鯨の最小メモリは1分で、その間隔は約4mm弱で1mmのメモリの約4倍で大きく感じました。仕立ての基礎となる標を付ける際には、きっちり仕立てようとすればするほど○寸○分強or弱とかcmのメモリとは違った仕立ての味付けみたいなことが、布地によって必要ですね。

着物の寸法について01

以前、聞いた和裁士(お師匠さん)の話です。

昔、呉服店に伺ったところ、ちょうど、着物を購入されたお客さんがいました。呉服店店主とその着物について話をしている中で、「並でいいですか?」と店主に話しているのを聞いたお客さんは、「並では困る。特上にしてくれ!」と言われました。

「並」と言っているのは、寸法のことでお客さんは、仕立てのランク(上手・下手)のことを勘違いして聞いたという笑い話ですが、私が仕立ての勉強をしはじめた頃では、女物並寸法と言えば、

  • 身丈    4尺(151.5cm)
  • 裄      1尺6寸5分(62.5cm)
  • 袖幅     8寸5分(32.2cm)
  • 肩幅   8寸(30.3cm)
  • 前幅   6寸(22.7cm)
  • 後幅   7寸5分(28.4cm)
  • 妻下   2尺(75.8cm)

という寸法が並寸法として残っていました。この寸法の中で前幅・後幅は地方色があり、関西圏は前幅6寸・後幅8寸、関東圏は6寸・7寸5分でした。徳川家康は三河の出身で、当時三河地方は大変貧しく、倹約していたことから、寸法も狭めでした。その徳川家康が、多くの家臣達を引き連れ江戸に行ったため、着物の標準寸法も狭く作ることが名残として残ったそうです。

また、私が経験したことは、中学校へ浴衣作りを教えに行った時のこと。呉服屋さんも参加していて、それぞれの生徒の寸法を決めていたときに呉服屋さんは、長身の生徒の妻下寸法を「2尺の並でいいんじゃない」と言っていたの聞き、違和感と疑問を感じたことを思い出します。
現在では、体型に合わせた寸法を基に、好みも加味され寸法が決められています。振袖などは、お端折りを少々多く出して若く見せたいので身丈を長くとか、農作業をしていて日焼けしていて手が大きいので、手が少し隠れる様に裄を長くするとか、着る方の好みを取り入れて仕立てるようにしています。

 

 

 

 

作り帯の着付け

姪っ子の結婚式に招待されました。妻はとても楽しみにしていますが、ちょっと遠方で、しかも朝が早く、着付けに時間をかけられないので、ささっと着付けが出来るように袋帯を作り帯にしました。手(胴)の柄によって、手を右側に出したり、左側に出したりすることが出来ます。

作り帯(袋帯)

作り帯に帯枕・帯揚げをセットします。

作り帯の着付け前の準備

好みの手(胴)幅で折り、帯板を入れてピンチで止めます。

作り帯の着付け前の準備02

帯枕を背負います。

作り帯の着付け01

帯揚げを仮に結びます。

作り帯の着付け02

手(胴)を巻き、先をお太鼓の下に入れます。

作り帯の着付け03

手(胴)を整えて

作り帯の着付け04

垂先の具合を確認して

作り帯の着付け05

帯に付いている紐を結び、帯の下に入れます。

作り帯の着付け06

帯締めを結び・・・・・

作り帯の着付け07

帯枕の紐を整えて結び・・・・・・

作り帯の着付け08

帯揚げも整えて結びます。

作り帯の着付け09

時間短縮することが出来ました!(^^)!

作り帯の着付け10

最近、出来上がった袋帯や名古屋帯を切らずに畳んで綴じ付ける作り帯にして欲しいという依頼が多いです。慣れてくれば早く着付けが出来ます。帯結びがネック!という方も多く、特に袋帯はちょっと締めにくい感がありますよね。作り帯、切り帯については以前のブログにも載せましたようにデメリットもあります。

以前、組合で作り帯や、切り帯を取り上げたことがあり、組合員さんに締めていただきましたが、とある方は、「締めにくい」と言われたことがありました。

どんな物でも一長一短ですが、興味のある方は、一度試してみてはどうでしょうか?

掛け衿の話(経験談)

以前のブログで「掛け衿と半衿の話」では、掛け衿について私達が日頃、この様に仕事をしていますという内容を載せましたが、今回は掛け衿(共衿)についての、経験談をちょっと載せてみます。地方や呉服店、和裁の修業先によっても違いますので、ご了承くださいね。今から十数年前の話ですが・・・・・・

夕方、当時仕事をしていた地元の呉服店から、翌日の朝7時頃、お店に来て欲しいとの連絡がありました。急なことでしたので困惑しましたが、掛け衿について、お客さんに説明をして欲しいとのこと。

内容をよく聞いてみると、

  • 付下げを購入したお客さんの掛け衿を二枚取って欲しいという要望が、呉服店に伝わっていなかったらしい。
  • しかし、もうすでに他の仕立屋で仕立て中であったため、付下げを解き、洗い張りに出して元の状態にしたとのこと。
  • 洗い張りが上がってきたので、その反物を持ってお客さん宅へ行き、説明をして欲しい。
  • お茶の先生で、着物に詳しく、早朝にしか都合が付かない。

と言った内容でした。正直、私は朝が苦手なのですが、承諾し、早朝、物差しなど和裁道具を持って呉服店に行き、商用車で店員の方と一緒にお客さん宅へと向かいました。
お客さん宅に着き、反物を広げたところ、幸いにも掛け衿と本衿(地衿)の柄がなく、無地でした。本衿と掛け衿がまだ切れていなく、衿衽の布丈が通常より長かったことなどを確認し、お客さんの寸法で衿丈を計算。本衿布の長さをぎりぎりで取り、残りの布丈を測ると約47cm位の掛け衿が二枚取れることが分かりました。

お客さんには、「掛け衿を二枚取ることは出来ますが、この長さは浴衣などの長さで、ちょっと短めです。本衿もぎりぎりなので、洗い張りなどをした場合、縮んで妻下の寸法が変わってしまうかもしれません。」などなど・・・・作り直したりする場合の縫い代のバランスなども説明しました。でも、お客さんは、気に入った柄で長く着たいので、掛け衿を二枚取って欲しいということでした。その後、その付下げを仕立てることとなり、掛け衿は別付け別納めで縫ったことを思い出します。

今思うと、私はずいぶんと若かった頃で・・・・・この様なことは初めての体験。どきどきしながら、とても緊張したことを思い出します。
そして、仕立てをする時にはスリーサイズから割り出した、決まった寸法で作るのではなく、着物をどんな使い方をするのかとか、着る方の要望をよく聞き、分かりやすく説明しないといけないなあ~と感じた日でした。

スナップについて

私達が使っているスナップを、紹介します。

下の写真で、左側4つの直径8mmのものは、主にコートで使用します。真ん中のものは、たまに着物でも使われています。右の2つは6mmで、着物や長襦袢に使っています。

和裁で使っているスナップ

お客様など指定があれば、布で包んである「包みスナップ」を使います。

包みスナップ

金属製のものは、時間が経つと錆が出て着物の衿裏や長襦袢の衿芯に浸みてしまう場合があるので、プラスチック製のスナップを使う場合もあります。

プラスチック製のスナップ

地方や呉服店などにもよりますが、私どもで付ける数は、背縫いを中心に1個・2個です。

1個の場合、背中心に付ける場合もありますが、下のイラストのように、ゴロゴロしないように、背縫い代を避けて付ける場合もあります。

スナップ1個の場合

2個の場合は、背縫いから4~6cm程度の所に付けます。

スナップ2個

今まで仕事をしていて一度、6個付けたことがあります(^_^;)

スナップ以外に紐(穴糸など)をつけて、衿が半幅に折れる様にするものもあります。

背の紐(穴糸など)

絽長襦袢を仕立てています。

喪服一式など結納に必要ということで、正絹(絹100%)絽長襦袢を仕立てています。

絽長襦袢の背縫い

この場合、居敷当てが付かないので、補強の意味で、背縫いは約70cm程度一針ずつ縫い返しをします。

絽長襦袢

背縫いの縫い返し

脇は、10cmほど縫い返しをします。

絽長襦袢

脇の縫い返し

身八ッ口には、力布で補強します。

絽長襦袢

身八ツ口

裾は地の目(絽の目)を通して(揃えて)三つ折りぐけにします。地方や呉服店によっても違いますが、くけ上がり幅が約1cmの場合もあれば、約3.5cmの場合もあります。この場合は、1cmです。

絽長襦袢の裾

生地が透けるのものなので、衿肩明きには、大きな肩当ては付けず、三日月布(力布)を付けます。

絽長襦袢

三日月布

衿先布も、地の目を通して仕立てます。

絽長襦袢の衿先

正絹物(絹100%)のものは、裾や袖底(袖下)など地の目を通して仕立てます。

「地の目を通す」という意味は、布の耳端から耳端まで横糸1本ずれないように通すことをいいます。

例えば、名古屋帯の垂先も地の目を通しますが、縫い合わせる際に下の写真のように綴じます。

名古屋帯

垂先の綴じ

正絹物であれば袷着物や長襦袢の裾など、名古屋帯の垂先・手先など、よっぽどの箔使いや耳端の吊れ、強い生地のゆがみなどがない場合は、地直し(仕立て前にアイロンを掛けること)で生地を真っ直ぐにして、地の目を通して仕立てています。

掛け衿と半衿の話

女物大島の掛け衿

現在、着物には掛け衿という本衿(地衿)の上にもう一枚、共地の布が付いています。

女物袷着物の掛け衿

掛け衿の役目は本来、布の補強と汚れたら掛け衿を取り外し、洗ったり出来ます!という布です。半纏や時代劇によく出てくるパターンで、娘さんが着ている黄色地に格子の着物の衿に、黒繻子が付いているのを見かけたことがあると思いますが、同じ発想ですよね。昔はクリーニングも無かった時代で、洗うと言えば「洗い張り」だったんでしょうね~。だからよく汚れる首回りの掛け衿を、簡単に取り外せる工夫をしたのでしょうね。

私が仕事を始めた20数年前までは、反物を裁断する時に、掛け衿を交換するように、二枚取る裁断法がありました。

女性物の掛け衿

地方などによって変わりますが、女性物着物の掛け衿の長さは、着物の種類によって変えています。浴衣は剣先から約10cm程度を目安に(背からの長さは45cm程度)、着物(袷・単衣)となると浴衣より少し長めで背からの長さは48cm程度です。衿肩明きや繰り越しが大きい場合や、反物の長さが短い場合はこの限りではありませんが、このくらいを目安に仕立てていました。でも、最近ではもう少し長めで50cm程度が多いようです。昔の着姿は帯揚げの上に掛け衿先が見えていた方が多く、現在は長めになったために掛け衿先が見えない着姿を見るようになりました。

男性物の掛け衿

男性の着物は、女性物と比べ剣先が高く(衽下がりが短い)、掛け衿の長さは40cmちょっとでしょうか。

仕立て方について

・別付け別納め

地元の呉服屋さんで一軒、きものの掛け衿を「別納め」にして下さいという指示をしていたお店がありました。長襦袢の半衿のように本衿の上にのっているように付けます。衿裏側から見ると下のイラストのようになります。掛け衿のみが取り外せます。私たちはこの掛け衿の付け方を「別付け・別納め」と呼んでいます。バチ衿、棒衿でも別納めの場合、本衿を出来上がりにくけ付け(納め)てから、掛け衿を本衿にくけ付け(納め)ます。

浴衣以外の着物の場合、本衿を身頃に付けてから、掛け衿先を縫い付け、本衿付けの根元に掛け衿をくけ付けます。(別付けといいます)

別付け束納め

現在、着物の掛け衿で多いのは、「束納め」です。仕立ての最後に本衿を掛け衿で包み、衿裏と表衿(本衿・掛け衿)を本ぐけします。この方法は「別付け・束納め」とよんでいます。

・束付け束納め

それに対して浴衣は、本衿に掛け衿を綴じ付けてから、掛け衿と本衿を一緒に身頃に縫い合わせ、衿幅で折り返し、掛け衿で本衿を包み一緒に身頃にくけ付ける(納める)方法で、この方法を「束付け・束納め」と呼んでいます。

現在、自宅で掛け衿を外して、掛け衿だけを洗って(染み抜き)、そして掛け衿を縫い付けるという作業をする方が殆どいなくなりました。着物もクリーニングする時代で、手軽に丸洗い出来てしまうので、こんな仕立て方に変わってきたようですね。

半衿について

長襦袢の半衿

長襦袢には正絹(絹100%)や化繊物の半衿を付けます。白や刺繍が施してある物、ビーズで出来た物やバイアスに織った物もあります。男物のように色が付いた物など様々な物が出回っています。

長襦袢の「ジュバン」の語源はポルトガル語の下着を意味する言葉といわれています。昔、肌が直接触れる襦袢の衿には、手ぬぐいを縫い付けたそうです。時間が経って、お洒落に、粋な半衿が出回るようになりました。呉服店の名前で「えり○○」とか看板で見かけるかと思いますが、昔は半衿やさんだったケースが多いと聞きます。

神社にて(七五三詣り)

神社にて(七五三詣り)

日曜日、天気がいいので、妻とドライブがてら岡崎市の龍城神社に行ってきました。

龍城神社

すぐ横には岡崎城があり、さわやかな秋晴れのもと、七五三詣りの子供達、そのお父さんやお母さん、おじいちゃん、おばあちゃんで賑わっていました。

七五三詣り

私は、息子が二人で、紋付きの羽織袴でお祝いをしました。私も着物姿で、当日結婚式も行われていたらしく、新郎と間違えられた思い出もあります。

この日、仕立ての仕事をしているせいか、目を引いたのが七才の女の子。

七才祝い着

着物の生地は小紋ですが、柄は絞りであしらってあって、感じがいいですね。帯に帯揚げ、帯下にしごき、胸に筥迫(はこせこ)。髪も、きちんと結ってあって、凜としていて、可愛いです。病気もせず、元気にすくすくと成長してね!

2015年10月27日 | カテゴリー : 歳時記 | 投稿者 : 和裁屋

袋帯の地方色(帯について その2)

袋帯の地方色(帯について その2)

以前、和裁団体の新年会に行った時のこと。とある女性の着物の後ろ姿を見て「何か違う??」と感じ、よく見てみると袋帯の垂先に織り止めが出ていました。

垂先には、2本の織り止め(太く線に織ってある線・かいきり線ともいいます)があるものがあります。1本の物も、無い物もあります。

袋帯の織り止め

私は愛知県在住で、修業先も愛知県でしたので、垂先の織り止めは隠して仕立てをしています。

関東圏の袋帯

垂先出来上がり

知識として、関西圏の場合、織り止めを出すというようなことを聞いていましたが、その新年会での着物姿を見た時に、どことなく違和感を覚えました。

関西圏の袋帯

垂先出来上がり

その女性の方にお話を伺ってみたら、京都で修行されて、岐阜県で仕事をされているとのこと。自分の袋帯は、垂先織り止めを出して仕立てているそうです。

三重県や長野県の方は、出さないとのことでした。

では、この2通りの仕立て方の境目はどこ?という疑問が涌き、とある和裁の先生に聞いたところ、「鈴鹿山脈あたりが境目なんじゃないかな?」とおっしゃっていました。

地方での仕立て方は様々です。湿気の多い日本海側では、布が縮みやすいので立褄や身八ツ口・振り・袖口など束(裏表一緒)に縫い躾を施したり、子供の着物も仕立て方が違ったりします。現在ではNC(ナショナルチェーン店)と呼ばれる呉服屋さんが台頭して、殆どが海外で仕立てられ、全て同じ仕立て方で着物が出来上がっているようです。

仕立屋としては、着られる方の意向をよく聞いて仕立てをしていますが、昔からの地方の気候風土などを考慮した仕立て方が失ってしまいそうな気がしてなりません。