着物の寸法について02(鯨尺)

仕事場を整理していたら、曲尺(かねじゃく)の2尺物差しが出てきました。

和裁で使用する長さは鯨尺(くじらじゃく)ですが、同じ尺・寸・分という単位なので間違えて購入したのかな?

鯨という名前が付いているのは定かではありませんが、鯨のひげから作られたともいわれ、その名前が付いたそうです。尺・寸・分・厘という単位を使います。
それに対して建築で使われるのは、曲尺で1尺は30.3cmです。柱の太さなど、長さや面積に使われています。
もっと身近なものでは、大人のお箸の長さで、7寸5分で約23cm。子供の箸やお弁当に付いている短い箸では、1時間も使っていると肩がこってしまうそうです。その長さは、大人の肘から手首のくるぶしまでとか、また、お正月に使う「祝い箸」の長さは8寸で、八で末広がりの意味から8寸だそうです。私達の生活の中に、昔から伝わる長さが今もなお、根強く息づいていますね。

 

さて、和裁の鯨尺の1尺は37.9cmです。
下の写真のように、鯨尺と曲尺の2尺物差しを並べてみると、鯨尺の8寸は30.3cmで曲尺の1尺にあたります。鯨尺1尺6寸が曲尺の2尺となります。
何か、ややっこしい(-_-;)

曲尺と鯨尺の2尺を並べてみました。

曲尺と鯨尺の2尺を並べてみました。

 

◆和服の寸法は、鯨尺が基になっています。
和服の長さも、昔から変わらず、今なお使っています。私は、名古屋で和裁の修業をしましたが、和服の寸法は鯨尺で記入されいるものが殆どで、換算表を使ってcmに換算し、cmの物差しを使って縫製をしていました。和裁を勉強し始めた私にとって、換算表を見ることは面倒とは思いましたが、慣れてくるとよくある寸法、袖口は6寸=22.7cmというようにすぐ思い浮かぶようになり、鯨尺の長さを覚える煩わしさもなく、すんなりと和服の各部分の長さを感覚的に身に付けることが出来ました。

以前のブログ(着物の寸法について01)にも載せたように、昔は並寸法というのがありました。その中で昔から変化せず、通常に決まっている寸法があり、もともと鯨尺の寸法が基となっています。

前身頃01

イラストの衿は、バチ衿です。

女物着物の場合

  • 袖口明き     6寸(22.7cm)
  • 広衿幅   衿肩回りから衿先まで真っ直ぐで3寸(11.4cm)
  • バチ衿幅  衿肩回り1寸5分(5.7cm) 剣先1寸7分(6.5cm)衿先2寸(7.5cm)

上記以外で、体型によって変化させますが、ほぼ決まっているのが

  • 袖付け   5寸5分~6寸(20.8~22.7cm)
  • 衽下がり  5寸5分~6寸(20.8~22.7cm)
  • 身八ッ口  3寸5分~4寸(13.3~15.2cm)など・・・・・

残りの寸法の身丈・裄(袖幅・肩幅)・身幅(前幅・後幅)などは、体型によって細かく寸法を変えます。

修業を終え実家に戻りましたが、実家では全て鯨尺で仕立てを行っていましたので、現在では鯨尺を使用しています。6年間、鯨を換算してcmに変えて仕事をしてきた二刀流?ではありましたが当初、戸惑うことがありました。背縫いは1cmという長さが身についていたせいか、鯨での背縫いは通常2分5厘の9.5mmで「ちょっと細いよなあ~」、3分では太いと感じ、背縫いはcmの物差し、あとは鯨というように使い分けていました。

◆寸法の確認方法
お客様の寸法を割り出したり、体型に合わなくなった着物の身幅の確認、呉服店からいただく伝票の身幅(前幅・後幅)など、必ず確認をしています。
例えば、一番太い箇所がヒップ100cmの方で、前幅が6寸5分・後幅が8寸の場合、ヒップ100cmなので衽幅(合褄幅)は4寸2分程度だとすると、大ざっぱではありますが、着付けの基本の衽の立褄が脇線に揃うような着付けをし、立ったり座ったり動作をしやすくする緩みが、どのくらいあるのか確認の計算をすると

きもの身幅の構成

きもの身幅の構成

  • まず、前幅+後幅×2+衽幅(合褄幅)の計算を行います。
  • 65+80×2+42=267(2尺6寸7分)でこれをcmに換算すると、
  • 267×3.79=1011.93となり身体を巻くきものの幅が約101cm
  • ヒップ100cmと比較して緩みが1cmしかないという結果となり
  • 「この寸法では狭く、もう少し身幅を広げた方が着やすい」となります。

緩みは体型や着物を使うTPOによっても異なりますが、4cm以上はあった方がよいのではないかと思います。

 

◆鯨を使い始めて、困ったのは、

名古屋帯を仕立てる場合、修業先では並寸法の8寸上がりの場合、垂幅は30.3cmに出来上がるようにして、垂幅の半分の手幅は換算表を見ると4寸が15.2cmとなっていますので、その寸法に出来上がるように標を付けます。帯芯は30.3cmで裁断しますが、手の帯芯幅は半分に折って15.15cmとなります。結果、手の出来上がり幅より0.05cm帯芯が狭くなり、この0.05cmの差がちょうどよく手の部分の中に入る帯芯の幅としっかりと身についていました。これが鯨尺で標付けをして真半分になってしまうと0.05cmの差が無くなってしまい、何となく芯がダブってしまうと感じました。このことはcmと鯨の換算の誤差で、実際には、名古屋帯の場合では生地や帯芯の厚み、素材(透ける物か否か?)によって微妙に標付けや帯芯の幅を考慮することが必要になってきます。

土地や建物に使われている「坪」は私にとって解りやすく、この土地50坪だねといわれれば何となく想像が付きますが、165.3㎡とか言われると「?」ですね。着物の袖丈とか測らなくとも、ぱっと見で「長いね・短いね」と感覚で感じ、1尺3寸位かな?なんて思ったりもします。
修行中はcm物差しの1mmの細かなメモリを見て標を付けたりしていました。鯨の最小メモリは1分で、その間隔は約4mm弱で1mmのメモリの約4倍で大きく感じました。仕立ての基礎となる標を付ける際には、きっちり仕立てようとすればするほど○寸○分強or弱とかcmのメモリとは違った仕立ての味付けみたいなことが、布地によって必要ですね。