子供のきもの⑥(肩腰揚げなど)

これまでに子供物のきものを説明しました。今回は、子供のお祝いに着るきものに施す「揚げ:あげ」について説明します。

以前紹介したように、子供の健やかな成長を願い、様々なお祝いがあります。地方によっても異なりますが、主なお祝い着と肩腰揚げなどは以下のようなものがあります。


・お七夜の祝
生が七日目に行うお祝いで、この日に命名(名前を決める)します。赤ちゃんには、産着を着せる習慣があります。産着(うぶぎ)に揚げはしません。


・お宮詣り
誕生後、初めて氏神様に参拝することを「お宮詣り:おみやまいり」といいます。生後30日前後、あるいは100日目に行うところもあります。この時に着せるのが「宮参り産着」と呼ばれる2枚重ねの掛け着です。この掛け着に揚げはしません。子供を掛け着でくるみ、祖母が抱きかかえ、紐をたすき掛けにして背で結び、紐には狛犬の張り子を付けたりします。この時の2枚重ね掛け着は、三歳のお祝いにも使用できます。

・三歳のお祝い:髪置の祝
主に女の子のお祝いです。この頃から、男女異なる髪型をし始めた儀式がのが始まりです。お宮詣りで使用した2枚重ね掛け着を使用する場合が多いです。

上着はきものに、下着についている朱色の飾り袖を取り、長襦袢として使うことができます。きものも長襦袢も肩腰揚げをし、袖丈が長い場合は袖揚げも行います。掛け着は大名袖なので、丸み(袂丸)を付け袖口明きまで縫い合わせます。紐は紐飾りを取り、約7.5cm幅なので身八ッ口(脇止まり)を紐幅の中心位置に縫い付けます。

長襦袢には半衿を付け、肩腰揚げなどを行い丸みを付けます。帯は軽いしごき程度で、上に被布を着せる方が多いようです。

・五歳のお祝い:袴着の祝
男の子のお祝いです。少年へとうつり初めて袴を着ける儀式で、これ以降は男女別々の衣服を身につける習慣があり、この名残と言われています。五ッ紋付きの羽織と袴を着ます。きものと長襦袢には肩腰揚げ、紐を付け、羽織には肩腰揚げ、袴丈によっては袴揚げをする場合があります。袖は、丸みを付けない角袖とします。

・七歳のお祝い:帯解の祝
女の子のお祝いです。この頃になると、紐付きのきものをやめて、帯を締める儀式で、この名残と言われていますが、きものにも長襦袢にも紐を付ける方は多いです。どちらにも肩腰揚げをする場合がほとんどです。三歳・五歳のお祝いでは、腰揚げの位置は、被布や袴に隠れてしまいますが、七歳のお祝い着は隠れないので、腰揚げの高さによってイメージが変わります。腰揚げは待ち針で仮留めをして全体を見ながら位置を決めます。

・十三詣り
関西で主に女の子のお祝いです。地方によっては男子に褌(ふんどし)を贈る褌祝や、女子に腰巻きを贈る腰巻祝などがあり大人へと成長する区切りの儀式として行われ始めたそうです。本裁ちのきものに肩揚げのみ行い、お端折りをしてきます。ちなみに、舞子さんのきものにも肩揚げをします。

・揚げの種類と方法


・腰揚げ
身丈とは、きものの出来上がった長さのことで、着丈とは、きものを着た状態の長さのことです。着丈は首の付け根から床までの長さを基準として体型などによって加減したり、子供の着丈は身長×0.8で計算することもでき、身丈―着丈が腰揚げ分となります。

腰揚げとは、腰あたりで腰上げ分を摘んで縫いとじすることをいいます。
女の子の三歳のお祝いや、男の子五歳のお祝いでは、被布を着たり袴で腰揚げ摘み上がりの「わ」の位置は見えませんが、女の子七歳のお祝いでは、腰上げの位置によってかわいらしさが変わります。昔は比較的腰上げの「わ」の位置が低かったようですが、最近では大人びた着方で腰上げの「わ」の位置が高いようです。
腰揚げ分の量があまりにも多く腰上げの位置が低くなってしまう場合は、二重揚げをします。

・肩揚げの方法
肩幅の中心を摘まみ山として肩揚げをします。肩揚げをする寸法は実際に測ったり、身長×0.4+2cmで計算することもできます。


・袖揚げの方法
着丈(腰揚げが出来上がった寸法)-袖幅/2より長い場合、袖口より4cm程度の位置で袖揚げをします。

参考資料:社団法人日本和裁士会発行 新版和服裁縫下巻
社団法人全日本きもの振興会編 きもの文化検定公式教本Ⅰきものの基本 

繰越について③

様々な着付け方法があることは聞いていますが、仕立て屋として、背縫いは背骨に沿わせ、腰骨に脇を合わせることが基本となり、後幅、前幅などの寸法が構成され、体型に合わせた寸法を決めることができます。

「きものは風呂敷のようなもの」と言われた方がいます。風呂敷はスイカのような物も一升瓶のような物も綺麗に包むことができます。きものも多少体型の違った方でも綺麗に着付けができます。特に女性はお端折りがあり、多少、融通が効き、長襦袢の衿に着物の衿を沿わせることができますが、あまりにも繰り越し寸法などが違いすぎると、ねじった着方となり、衿周り・胸回りにシワが出てしまいそうですね。基本としては脇や背の位置を決め、衣紋の抜き加減を決めます。それの繰り越し寸法は、普通体型の方は2cm程度(上がり3cm程度)で、少し肩に厚みがある方は3cm程度(上がり4cm程度)、最大で4cm位です。

最近、着物を仕事で着る方が訪れ、若い頃の着物を着てみると衿がガバガバに空いてしまうという相談を受けました。長襦袢は俗に言う「うそつき」の上着と下着に分かれている2ピースの物で、長襦袢の衣紋の抜き加減は自分の着やすいようにできます。きものの衿が浮いてしまうと仰りました。その方は、ご年配で多少お太りですが、年を追う毎に背中が丸くなり、いつものように着ると衣紋の抜き加減が多くなってしまいました。私どもで、繰越直しを少なくして改善されました。

繰越について②

・繰り越しとは

上図のように平らな場所で前身頃と後身頃の裾を合わせ、山になるところが肩山で、肩山からどれくらい深く衿が付いているかというのが繰り越し寸法です。明治時代頃までは、繰り越しは付いていなかったと言われています。

衿肩明きでもそうでしたが、繰り越し寸法も2種類の寸法表示があります。私のところでは呉服店の仕立てをする際の寸法伝票には、肩山から衿肩明きまでの距離が示されていてます。出来上がりの繰り越しの距離は衿付け縫い代(1cm強)を加えた寸法となります。(衿肩明きについてはここから

もう一つの寸法表示は出来上がりの寸法で示す場合がありますので、出来上がり寸法か、そうではないのかを確認する必要があります。

また、下図のように衿肩明きを肩山で切り、衿付け縫い代を1cm以上深くする「付け込み」という方法もあります。

現在、女物には繰り越しを付けますが、標準体の男物や子供物には付けません。なので、下図のように繰り越し無しといっても、1cm強肩山より深く衿が付いています。

男性で肥満体の方などは、0.8cm程度から繰越を付ける場合があります。

繰り越しについて①

今から30年以上も前、私が和服裁縫の修行中、納品を任され名古屋の栄や駅周辺などへ、行っていました。仕事柄、どうしても着物姿が目に留まります。夕方の納品時には出勤前でしょうか、俗に言うスナックのママさんなどの「お水系」の方などがよく歩いていました。その姿は髪のセットや化粧以外にも、着物の着方、特に衣紋の抜き加減で、およそ区別できました。ぐーっと衿を後ろに抜いて、背中が見えていたように思えます。それに対して当時の一般の方、特に若い方の着方は現在よりも、それほど衿を抜かず、初々しく、きちっとした清楚な感じでした。着物の柄も当然ですが、着方によっていろんな事が表現できた時代であった様な気がします。

現在では、着付けの仕方が変わってきたのか、自由勝手に着ているのか、着方でその人を想像するのにわけがわかりません。先日、テレビで○○コーディネーター?と称する方の着物姿が目に留まりました。寸法が体型に合っていないのか、無理矢理衿を抜きすぎているのか、左右の掛け衿先が見え、背縫いが背中心に合っていないのか、掛け衿先の高さが揃っていない、ねじれたような残念な着方をしていました。テレビ局の衣装担当の方がちょっと直してあげたりしないのかな?誰も何も言わないのかなって思います。

四六時中、着物姿はどうしても目に留まってしまいます。テレビでは、さすがに演歌歌手の方は、いつも綺麗に着られていますし、落語家さんでも、きっちり寸法が合っているような着物を着ています。中には中古品なのか既製品なのか、寸法が全く合っていない着方をしている方も、目に留まってしまいます。

自由に和服を楽しむことは、私はとても嬉しく思います。でも、「いろんな意味があるよ!」って知ってもらえれば、もっと嬉しいです。

次回からは繰り越しについて細かく説明します。

紋の位置について

和服に紋を入れる場合があります。一ッ紋・三ッ紋・五ッ紋。数が多いほど格が高いものとされています。一ッ紋は背に1つ、三ッ紋は背と袖に、五ッ紋は背と袖と抱き(前身頃)に付けます。

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結婚式での新郎の紋付き羽織袴姿、喪服、留袖などには五ッ紋を入れます。紋の種類には日向紋やかげ紋、縫い紋等があり、家紋ではなく、草花などをあしらった、刺繍のお洒落な伊達紋を無地の振袖などに入れる方もみえます。

紋の位置の目安は、男女大人用着物・四ッ身着物(4~5歳ぐらいまでの着物)・一ッ身(1歳~2歳までの着物)の3種類に別けられていて、それぞれの紋の上端までの距離です。

  • 男女大人用着物
    背紋下がり … 衿付けから約6cm
    袖紋下がり … 袖山から約7.5cm
    抱き(前)紋下がり … 肩山から約15cm
  • 四ッ身着物
    背紋下がり … 衿付けから約4.5cm
    袖紋下がり … 袖山から約6.5cm
    抱き(前)紋下がり … 肩山から約13cm
  • 一ッ身
    背紋下がり … 衿付けから約4cm
    袖紋下がり … 袖山から約6cm
    抱き(前)紋下がり … 肩山から約11cm

と、されています。

紋下がり06

紋下がり07

 

 

仕立ての見積もりをする時に、背紋の位置から身頃の四ツ山位置(衿肩明きを切る位置)を決め、裁ち切る身頃丈を決めます。背紋の上端から衿付け縫い代を加えた寸法で四ッ山を決め、抱き紋までの距離を測り、左右の抱き紋下がりが合っているのかを確認します。また、背の紋中心を測り、背縫い代の深さを決めます。

背と抱き紋下がり

 

無地などの仕立てで紋入れからする場合には、予め見積もりをして位置を決めます。注意しなければならないのは、繰り越しが大きい方(衣紋を多く抜く方)や肩の厚みが極端にある方は、背紋下がりの位置や肩山からの抱き紋の距離を考慮しないと、着たときに不自然になってしまいます。

 

紋の大きさは、女物は直径2cm、男物は直径3.8cmとされていますが、伊達紋などは大きな紋が入ります。

 

 

寸法直しが難しい事例(脇縫い代の切り込み)

以前、単衣着物の身幅を広くする寸法直しの依頼がありました。脇縫い代は、身幅を広げられる幅はありましたが、裾の三つ折りぐけを解いてみると・・・・・(写真は、絽の生地で縫ってみました)

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上の写真の様に背や脇、衽の縫い代が切り落とされていました。この状態では裾まで身幅が広がりません(T_T)
切り落としてある所に沿って、裾全部を切り落とす事になります。女物ならばお端折りがあり、多少、身丈が短くなっても構わなければ良いのですが、男物の場合では、対丈(お端折り無し)で着ますので身丈が短くなると、ちょっとスネが見えてしまったり・・都合が悪くなります。身丈直しとなると、内揚げ(腰あたりの縫い込み)があれば、短くなった寸法を内揚げから出し、元の身丈にできますが、当然、衽と衿を外して直さなければなりませんので、結構手間が掛かってしまいます。

 

裾の仕立て方には様々な方法があります。この様に、重なり部分を切り落としてしまうのは、下の写真の赤枠で囲ってある部分の、裾での脇縫い代の布の厚みを解消し、裾の三つ折りの幅を真っ直ぐ、すっきりと見せるためです。

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私は、仕立て直しや寸法直しができるという、和服の最大のメリットが失われてしまいますので、この様な、縫い代を切ってしまう仕立て方は好きではありません。私達は下の写真のように、最低限の切り込みで(縫い目隠しなどの仕立ては、少々深く切り込みを入れますが、切り落としたりはしません。)裾を縫っています。布の厚みは、しっかりと鏝で押さえ込んで仕立てています。

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様々な洗い張り品や、直し物の仕事が多くなってきましたが、縫い代の重なっている所を全部切り落としてある物や、鉛筆で標を付けている物、アイロンテープ(裾上げテープ)で縫い代を仮留めしてある物、芯を糊で接着してある物など、私では、ちょっと考えられないような仕立て方をしている着物などがあります。

後々、娘さんが着られるようになど「仕立て直す・寸法を直すことを前提とする」ということが大切だと修業時代、師匠から教えていただきました。「もったいない」という日本文化の中で、リサイクル・リメイク・リフォームができるからこそ、和服は受け継がれてゆくと思います。

 

袖丈?裄(ゆき)? 正確な裄寸法の測り方

「袖丈が長いので直していただけますか?」と寸法直しのお電話をいただくことがあります。

和服(きもの・長襦袢・羽織る物:羽織やコートなど)で一番シビアに寸法の差が現れるのは、裄寸法(袖幅・肩幅)です。女物のきものの身丈はお端折りがあるので、多少調節できるなど、融通が効く寸法はありますが、裄寸法(袖幅・肩幅)は数ミリ単位で寸法を操作して、袖口や振りから長襦袢が出ないようにするなど、和服の仕立てでは大変重要な寸法です。

 

お客様のお話をよく聞いてみると、和裁の寸法で言う「裄:ゆき」が長いとのことです。洋裁の寸法名称(測る場所)と和裁の寸法名称が違っているので、そんなことがよくあります。

洋裁の寸法名称

洋裁の寸法名称

上の図で、袖丈というようにかかれているところは、「裄丈」というような名称の場合もあるようですね。

和裁は、肩幅と袖幅を足した寸法が「裄」となります。

和裁の寸法名称

和裁の寸法名称

裄寸法の測り方によっては、違ってしまします。正確な寸法の測り方は、下の図のように、袖口・振り・身八ツ口をぴったり揃え、衿は、肩山の折山通りにして衿を繰り越し分抜き、身頃を平らにします。袖も袖山の折通りにして平らに置きます。

裄の測り方

裄の測り方

測るときには、袖山・肩山を手前に(自分側)に置くと測りやすいです。

きものの裄の測り方

きものの裄の測り方

 

動画を作成しました。ご覧ください。

 

 

 

たまに、下の図のように袖山の袖幅と、振りでの袖幅が違っている場合があります。この様な袖付けの付け方を「扇付け」と言われています。

袖付けの「扇付け」

袖付けの「扇付け」

注意点

  • 注意しなければならないのは、長襦袢の上に着物を着ますので、着物の裄直しをする場合は、長襦袢の袖幅や肩幅、裄の寸法がどのようになっているのか、確認する必要があります。いろいろな仕立て屋さんや呉服屋さんで、長襦袢の控え寸法(着物より控える寸法)は異なりますが、私どもは、裄は着物-1.2cm、袖幅は着物-0.8cm、肩幅は着物-0.4cmで仕立てます。また、長襦袢の生地幅が非常に伸びる場合(着用するときに引っ張りますので)や、単衣の紬などの生地で、長襦袢が着物にくっついてしまう場合、袖口明きが大きい男物の場合など、長襦袢の裄を-2cm程度にする場合があります。

 

  • 逆に着物の上に着るコートや羽織は、着物の裄(袖幅・肩幅)を広くします。アンサンブルは同時に仕立てるので、着物と羽織の寸法は整合性がありますが、オークションで購入された着物や長襦袢、羽織などは寸法がバラバラなので、注意する必要があります。

 

  • 羽織(コート)→着物→長襦袢 の順序で裄(袖幅・肩幅)も短くしてゆきます。幅の関係が良くないと、振りから長襦袢が出てしまったりしてしまいます。長襦袢はポルトガル語の「ジュバン」が語源で下着と言う意味です。長襦袢が出てしまうと「みっともない」と言われかねません。ちょっと意味が違いますが・・・・「人の振り見て、我が振り直せ」とも言いますので・・・・(^_^;)ちょっと違う意味ですが・・・・・・

 

 

 

浴衣の着姿

夏、真っ盛りですね~

街を歩いていて花火大会や納涼祭りで、また、テレビのCMやバラエティー番組などなど、浴衣の着姿を目にすることが多くなりました。

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浴衣の着姿を見ていて、仕立て屋目線で気になることがあります。それは、衿元で衿の打ち合わせ具合です。男性の浴衣は、胸元が見え少々はだけていてもワイルドっぽさを演出?する事ができますが、女性の場合、浴衣は長襦袢を着ないので(衿元に半衿を出すことはありません)胸元が開いているのはちょっといただけませんね。衣紋もあまり抜かず、衿をある程度深く重ね、詰めて着た方が清楚さがあり(詰めすぎると暑苦しくなりますが・・・)、逆に胸元が開いていて衣紋が抜きすぎていると妙にケバケバしく、いやらしい変な感じがします。(仕立て屋だけかもしれませんが・・・)もちろん、着付け方にもよりますが、既製品では寸法上、胸元のことまでは何ともならない場合があります。

衿元の打ち合わせ

衿元の打ち合わせ

 

標準とされる寸法で仕立てると以下のようになります。

衽下がりの違い01

衽下がりは標準で23cm(6寸)です。

バストが大きい方は胸元が開きやすいので、衽下がりを20cm程度にして、胸元の布幅(脇から衿付けまでの距離)を広くします。特殊な例では衽下がりを15cm位にしている方もいました。

衽下がりの違い02

上の図で比較すればよく分かると思いますが、衽下がりを短く(剣先を高く)する事によって①よりも②の方が広くなっていることが分かります。もちろん、バストによって抱き幅(身八ッ口での脇から衽付けまでの距離)を広くしますが、抱き幅と前幅との関係や剣先までの衿付けの斜め具合も計算し、着る方の体型に合わせて寸法を変えて仕立てています。もっと、ふくよかな方は衿付けを湾曲させて付けたりもします。

 

「浴衣」で検索すると、着姿の画像がいっぱい出てきて、「ちょっとな~」と思うものもあります。また、ネットショップなどで見ることができますが、長襦袢?なのか嘘つき長襦袢?を着て半衿を出して浴衣?なのか単衣?なのか分からないものを着ている姿を「浴衣」として販売もしています。

もともと浴衣は、「湯帷子:ゆかたびら」ともいい、風呂上がりに着用する単衣の和服(帷子)のことで、汗を吸うように綿で出来ている物です。お殿様は、風呂上がりに浴びるように着て汗を取ったともされ、浴衣という名前が残っています。なので、夕方から着始める和服です。真っ昼間から、着ない和服なんですね~(お年を召した方がよく仰っています。チェックが厳しいですね(^_^;))

時代と共に浴衣も夏の風物詩、ファッションとしても取り入れられ、丈の短いものや、衿にレースをあしらったものなど色々あります。私としても和服を着ていただける事は、大変嬉しいのですが、「本来はこうなんだよ」ということも知りつつ、カッコ良く着ていただきたいなあ~と思います!

 

衿肩明きについて

先日、大島紬の仕立て直しの依頼がありました。お太りになられ、八掛の色がちょっと派手になってきたので、洗い張りをして八掛け取り替えの仕立て直しの依頼です。
早速、解きながら衿肩明きを見てみると、幾度か仕立て直しをされているようですね。洗い張り時に、裂けてしまわないように、糸で綴じて、補強の裏打ちをしました。下の写真は仕立て中の衿肩明きです。

洗い張り品の衿肩明き

洗い張り品の衿肩明き

写真の通り、3回衿肩明きを切り直していますので、3回以上、仕立て直しているようです。
洋服は仕立て直しが殆ど出来ないのに対して、和服は、縫い代を一切、切り落とさないため、世界中でも類を見ないリサイクル性に優れた衣服で、仕立て直しが可能です。しかしながら、ただ一つ大きく切り込みを入れる箇所は、衿肩明きです。今回は衿肩明きについて、いろんな事をお話ししたいと思います。
(私達が普段行っていることなので、地方や呉服店等によって違います。ご了承ください)

◆繰り越しについて

繰り越しは、女物着物に付いています。通常の男物(とても体格のよい方には少し付けています)や子供物には繰り越しは付けません。

繰り越し

繰り越し

上のイラストのように繰り越しは、肩山(畳山の折)からどれだけ衿が後ろ側にずれているかという寸法で、出来上がり(上がり)寸法と、標付けをする際の繰り越し寸法とがあります。(詳しくは下記注1を参考にしてください)

◆衿肩明きの寸法について

衿肩明きは背縫いからどこまで深く衿が付いているか、という寸法です。

衿肩明きと繰り越し

衿肩明きと繰り越し

衿肩明きの寸法は通常9.2cm程度で、体型によって変化します。女物の場合、繰り越しをして着用しますので、首の付け根周りを測ってその寸法の1/4します。男物の場合は繰り越しはしないので首の中心を測って1/4します。少々男物の方が衿肩明きは小さめです。

衿肩明き採寸箇所

衿肩明き採寸箇所

寸法の表し方には3種類あり、私達は出来上がりの衿肩明き寸法を使っています。呉服店や、地方によって様々なようです。

3種類の衿肩明き寸法

3種類の衿肩明き寸法

 

◆衿肩明きの切り方について

衿肩明きを切る位置ですが、きものを仕立てるときに、唯一、大きく切り込みを入れる衿肩明きですので、リサイクル性を考えて、無地や小紋のきものの場合、前身頃と後身頃の中心(四ッ山)に衿肩明きの切り込みを入れます。

身頃の中心に衿肩明きの切り込みを入れます。

身頃の中心に衿肩明きの切り込みを入れます。

布の中心に衿肩明きがあるので、女物の場合、繰り越しを付けるために、後身頃を繰り越し分(繰り越し×2)ダブらせて標付けをします。出来上がったきものを見ていただくと分かりますが、後身頃の内揚げが前身頃の内揚げより多いのは、そのためです。

付下げや訪問着などの柄合わせがあるきものは、柄合わせをして、肩山が決まり、肩山から繰り越し分下がった箇所に、衿肩明きの切り込みを入れます。また、紋付きは紋上端からの距離から衿肩明きの位置を決めます。

今まで私が仕事をしてきて、衿肩明きの切り方には、大きく3種類の切り方があるように思います。この切り方によって、衿を付けるカーブの度合いも違ってきます。

  • 真っ直ぐ切る衿肩明き

    真っ直ぐな衿肩明き

    真っ直ぐな衿肩明き

    この衿肩明きは、真っ直ぐに切り込みを入れますので、前身頃と後身頃を入れ替えたりする場合に都合がよく、仕立て直す場合に一番有効な切り方です。但し、衿肩明きから剣先(衽の一番先端)まで、衿付けが緩やかに、スムーズにカーブを付けないといけないため、衿肩明きの裁ち切りから2cm程度「付け込み」をしないと、うまく衿が付きません。しかも、縫い代が深いため、布地が吊ってしまう場合があります。

  • ちょっとカーブを付けた衿肩明き

    カーブを付けた衿肩明き

    カーブを付けた衿肩明き

    私達が通常、衿肩明きの切り込みを入れている方法です。普通体型の場合、約2cm手前から0.8cmのカーブを付けます。特異体型の場合は少々カーブを大きくします。背では衿肩明き裁ち切りから1cmの深さで衿を付け、衿肩明き先端では0.2cmの深さで縫います。(注1:繰り越し(上がり)は繰り越し+衿付けの縫い代約1cmの寸法です)

  • 肩山まで切る衿肩明き

    肩山まで切る衿肩明き

    肩山まで切る衿肩明き

    上のイラストのように、肩山まで衿肩明きを切る切り方があります。仕立て直しがやり辛く、前身頃と後身頃を入れ替える場合では、衿肩明きが向かい合って布地が切り落とされてしまう場合があります。今まで仕事をしてきて、直し物などのきものに多いような気がします。

  • 男物の衿肩明き
    男物の場合は、繰り越しが付かないので、真っ直ぐ、あるいは0.2cm程度のカーブを付けて衿肩明きを切っています。

以前、きものを日常着にしている方が、「長襦袢の衿と着物の衿のそぐいが悪い」とおっしゃっていたので、着物と長襦袢を見てみると、衿肩明きや衿の付け方が違っていました。長襦袢の衿付けを直しましたが、同じ仕立屋で作ったものならば、同じ衿付けのカーブで付けますので、そぐいよく着られると思います。

また、浴衣を持ってこられた方に、「衿は角張って付けないでね」と言われたことがあり、大きくカーブを付けて衿肩明きを切って、衿付けをしました。

些細なことかもしれませんが、着る方にとって居心地悪い着物とならないように、寸法見本は出来るだけお預かりするようにしています。

着物の寸法について02(鯨尺)

仕事場を整理していたら、曲尺(かねじゃく)の2尺物差しが出てきました。

和裁で使用する長さは鯨尺(くじらじゃく)ですが、同じ尺・寸・分という単位なので間違えて購入したのかな?

鯨という名前が付いているのは定かではありませんが、鯨のひげから作られたともいわれ、その名前が付いたそうです。尺・寸・分・厘という単位を使います。
それに対して建築で使われるのは、曲尺で1尺は30.3cmです。柱の太さなど、長さや面積に使われています。
もっと身近なものでは、大人のお箸の長さで、7寸5分で約23cm。子供の箸やお弁当に付いている短い箸では、1時間も使っていると肩がこってしまうそうです。その長さは、大人の肘から手首のくるぶしまでとか、また、お正月に使う「祝い箸」の長さは8寸で、八で末広がりの意味から8寸だそうです。私達の生活の中に、昔から伝わる長さが今もなお、根強く息づいていますね。

 

さて、和裁の鯨尺の1尺は37.9cmです。
下の写真のように、鯨尺と曲尺の2尺物差しを並べてみると、鯨尺の8寸は30.3cmで曲尺の1尺にあたります。鯨尺1尺6寸が曲尺の2尺となります。
何か、ややっこしい(-_-;)

曲尺と鯨尺の2尺を並べてみました。

曲尺と鯨尺の2尺を並べてみました。

 

◆和服の寸法は、鯨尺が基になっています。
和服の長さも、昔から変わらず、今なお使っています。私は、名古屋で和裁の修業をしましたが、和服の寸法は鯨尺で記入されいるものが殆どで、換算表を使ってcmに換算し、cmの物差しを使って縫製をしていました。和裁を勉強し始めた私にとって、換算表を見ることは面倒とは思いましたが、慣れてくるとよくある寸法、袖口は6寸=22.7cmというようにすぐ思い浮かぶようになり、鯨尺の長さを覚える煩わしさもなく、すんなりと和服の各部分の長さを感覚的に身に付けることが出来ました。

以前のブログ(着物の寸法について01)にも載せたように、昔は並寸法というのがありました。その中で昔から変化せず、通常に決まっている寸法があり、もともと鯨尺の寸法が基となっています。

前身頃01

イラストの衿は、バチ衿です。

女物着物の場合

  • 袖口明き     6寸(22.7cm)
  • 広衿幅   衿肩回りから衿先まで真っ直ぐで3寸(11.4cm)
  • バチ衿幅  衿肩回り1寸5分(5.7cm) 剣先1寸7分(6.5cm)衿先2寸(7.5cm)

上記以外で、体型によって変化させますが、ほぼ決まっているのが

  • 袖付け   5寸5分~6寸(20.8~22.7cm)
  • 衽下がり  5寸5分~6寸(20.8~22.7cm)
  • 身八ッ口  3寸5分~4寸(13.3~15.2cm)など・・・・・

残りの寸法の身丈・裄(袖幅・肩幅)・身幅(前幅・後幅)などは、体型によって細かく寸法を変えます。

修業を終え実家に戻りましたが、実家では全て鯨尺で仕立てを行っていましたので、現在では鯨尺を使用しています。6年間、鯨を換算してcmに変えて仕事をしてきた二刀流?ではありましたが当初、戸惑うことがありました。背縫いは1cmという長さが身についていたせいか、鯨での背縫いは通常2分5厘の9.5mmで「ちょっと細いよなあ~」、3分では太いと感じ、背縫いはcmの物差し、あとは鯨というように使い分けていました。

◆寸法の確認方法
お客様の寸法を割り出したり、体型に合わなくなった着物の身幅の確認、呉服店からいただく伝票の身幅(前幅・後幅)など、必ず確認をしています。
例えば、一番太い箇所がヒップ100cmの方で、前幅が6寸5分・後幅が8寸の場合、ヒップ100cmなので衽幅(合褄幅)は4寸2分程度だとすると、大ざっぱではありますが、着付けの基本の衽の立褄が脇線に揃うような着付けをし、立ったり座ったり動作をしやすくする緩みが、どのくらいあるのか確認の計算をすると

きもの身幅の構成

きもの身幅の構成

  • まず、前幅+後幅×2+衽幅(合褄幅)の計算を行います。
  • 65+80×2+42=267(2尺6寸7分)でこれをcmに換算すると、
  • 267×3.79=1011.93となり身体を巻くきものの幅が約101cm
  • ヒップ100cmと比較して緩みが1cmしかないという結果となり
  • 「この寸法では狭く、もう少し身幅を広げた方が着やすい」となります。

緩みは体型や着物を使うTPOによっても異なりますが、4cm以上はあった方がよいのではないかと思います。

 

◆鯨を使い始めて、困ったのは、

名古屋帯を仕立てる場合、修業先では並寸法の8寸上がりの場合、垂幅は30.3cmに出来上がるようにして、垂幅の半分の手幅は換算表を見ると4寸が15.2cmとなっていますので、その寸法に出来上がるように標を付けます。帯芯は30.3cmで裁断しますが、手の帯芯幅は半分に折って15.15cmとなります。結果、手の出来上がり幅より0.05cm帯芯が狭くなり、この0.05cmの差がちょうどよく手の部分の中に入る帯芯の幅としっかりと身についていました。これが鯨尺で標付けをして真半分になってしまうと0.05cmの差が無くなってしまい、何となく芯がダブってしまうと感じました。このことはcmと鯨の換算の誤差で、実際には、名古屋帯の場合では生地や帯芯の厚み、素材(透ける物か否か?)によって微妙に標付けや帯芯の幅を考慮することが必要になってきます。

土地や建物に使われている「坪」は私にとって解りやすく、この土地50坪だねといわれれば何となく想像が付きますが、165.3㎡とか言われると「?」ですね。着物の袖丈とか測らなくとも、ぱっと見で「長いね・短いね」と感覚で感じ、1尺3寸位かな?なんて思ったりもします。
修行中はcm物差しの1mmの細かなメモリを見て標を付けたりしていました。鯨の最小メモリは1分で、その間隔は約4mm弱で1mmのメモリの約4倍で大きく感じました。仕立ての基礎となる標を付ける際には、きっちり仕立てようとすればするほど○寸○分強or弱とかcmのメモリとは違った仕立ての味付けみたいなことが、布地によって必要ですね。