スナップについて

私達が使っているスナップを、紹介します。

下の写真で、左側4つの直径8mmのものは、主にコートで使用します。真ん中のものは、たまに着物でも使われています。右の2つは6mmで、着物や長襦袢に使っています。

和裁で使っているスナップ

お客様など指定があれば、布で包んである「包みスナップ」を使います。

包みスナップ

金属製のものは、時間が経つと錆が出て着物の衿裏や長襦袢の衿芯に浸みてしまう場合があるので、プラスチック製のスナップを使う場合もあります。

プラスチック製のスナップ

地方や呉服店などにもよりますが、私どもで付ける数は、背縫いを中心に1個・2個です。

1個の場合、背中心に付ける場合もありますが、下のイラストのように、ゴロゴロしないように、背縫い代を避けて付ける場合もあります。

スナップ1個の場合

2個の場合は、背縫いから4~6cm程度の所に付けます。

スナップ2個

今まで仕事をしていて一度、6個付けたことがあります(^_^;)

スナップ以外に紐(穴糸など)をつけて、衿が半幅に折れる様にするものもあります。

背の紐(穴糸など)

絽長襦袢を仕立てています。

喪服一式など結納に必要ということで、正絹(絹100%)絽長襦袢を仕立てています。

絽長襦袢の背縫い

この場合、居敷当てが付かないので、補強の意味で、背縫いは約70cm程度一針ずつ縫い返しをします。

絽長襦袢

背縫いの縫い返し

脇は、10cmほど縫い返しをします。

絽長襦袢

脇の縫い返し

身八ッ口には、力布で補強します。

絽長襦袢

身八ツ口

裾は地の目(絽の目)を通して(揃えて)三つ折りぐけにします。地方や呉服店によっても違いますが、くけ上がり幅が約1cmの場合もあれば、約3.5cmの場合もあります。この場合は、1cmです。

絽長襦袢の裾

生地が透けるのものなので、衿肩明きには、大きな肩当ては付けず、三日月布(力布)を付けます。

絽長襦袢

三日月布

衿先布も、地の目を通して仕立てます。

絽長襦袢の衿先

正絹物(絹100%)のものは、裾や袖底(袖下)など地の目を通して仕立てます。

「地の目を通す」という意味は、布の耳端から耳端まで横糸1本ずれないように通すことをいいます。

例えば、名古屋帯の垂先も地の目を通しますが、縫い合わせる際に下の写真のように綴じます。

名古屋帯

垂先の綴じ

正絹物であれば袷着物や長襦袢の裾など、名古屋帯の垂先・手先など、よっぽどの箔使いや耳端の吊れ、強い生地のゆがみなどがない場合は、地直し(仕立て前にアイロンを掛けること)で生地を真っ直ぐにして、地の目を通して仕立てています。

掛け衿と半衿の話

女物大島の掛け衿

現在、着物には掛け衿という本衿(地衿)の上にもう一枚、共地の布が付いています。

女物袷着物の掛け衿

掛け衿の役目は本来、布の補強と汚れたら掛け衿を取り外し、洗ったり出来ます!という布です。半纏や時代劇によく出てくるパターンで、娘さんが着ている黄色地に格子の着物の衿に、黒繻子が付いているのを見かけたことがあると思いますが、同じ発想ですよね。昔はクリーニングも無かった時代で、洗うと言えば「洗い張り」だったんでしょうね~。だからよく汚れる首回りの掛け衿を、簡単に取り外せる工夫をしたのでしょうね。

私が仕事を始めた20数年前までは、反物を裁断する時に、掛け衿を交換するように、二枚取る裁断法がありました。

女性物の掛け衿

地方などによって変わりますが、女性物着物の掛け衿の長さは、着物の種類によって変えています。浴衣は剣先から約10cm程度を目安に(背からの長さは45cm程度)、着物(袷・単衣)となると浴衣より少し長めで背からの長さは48cm程度です。衿肩明きや繰り越しが大きい場合や、反物の長さが短い場合はこの限りではありませんが、このくらいを目安に仕立てていました。でも、最近ではもう少し長めで50cm程度が多いようです。昔の着姿は帯揚げの上に掛け衿先が見えていた方が多く、現在は長めになったために掛け衿先が見えない着姿を見るようになりました。

男性物の掛け衿

男性の着物は、女性物と比べ剣先が高く(衽下がりが短い)、掛け衿の長さは40cmちょっとでしょうか。

仕立て方について

・別付け別納め

地元の呉服屋さんで一軒、きものの掛け衿を「別納め」にして下さいという指示をしていたお店がありました。長襦袢の半衿のように本衿の上にのっているように付けます。衿裏側から見ると下のイラストのようになります。掛け衿のみが取り外せます。私たちはこの掛け衿の付け方を「別付け・別納め」と呼んでいます。バチ衿、棒衿でも別納めの場合、本衿を出来上がりにくけ付け(納め)てから、掛け衿を本衿にくけ付け(納め)ます。

浴衣以外の着物の場合、本衿を身頃に付けてから、掛け衿先を縫い付け、本衿付けの根元に掛け衿をくけ付けます。(別付けといいます)

別付け束納め

現在、着物の掛け衿で多いのは、「束納め」です。仕立ての最後に本衿を掛け衿で包み、衿裏と表衿(本衿・掛け衿)を本ぐけします。この方法は「別付け・束納め」とよんでいます。

・束付け束納め

それに対して浴衣は、本衿に掛け衿を綴じ付けてから、掛け衿と本衿を一緒に身頃に縫い合わせ、衿幅で折り返し、掛け衿で本衿を包み一緒に身頃にくけ付ける(納める)方法で、この方法を「束付け・束納め」と呼んでいます。

現在、自宅で掛け衿を外して、掛け衿だけを洗って(染み抜き)、そして掛け衿を縫い付けるという作業をする方が殆どいなくなりました。着物もクリーニングする時代で、手軽に丸洗い出来てしまうので、こんな仕立て方に変わってきたようですね。

半衿について

長襦袢の半衿

長襦袢には正絹(絹100%)や化繊物の半衿を付けます。白や刺繍が施してある物、ビーズで出来た物やバイアスに織った物もあります。男物のように色が付いた物など様々な物が出回っています。

長襦袢の「ジュバン」の語源はポルトガル語の下着を意味する言葉といわれています。昔、肌が直接触れる襦袢の衿には、手ぬぐいを縫い付けたそうです。時間が経って、お洒落に、粋な半衿が出回るようになりました。呉服店の名前で「えり○○」とか看板で見かけるかと思いますが、昔は半衿やさんだったケースが多いと聞きます。

浴衣の居敷当てについて

浴衣の居敷当てについて

絞り浴衣

めっきり、暑くなってきましたね。テレビでは某大型スーパーのCMでは伊勢型紙風??な既製品浴衣の宣伝をしています。私たちのところへは、真岡の浴衣の仕立てはめっきり少なくなってきましたが、綿紅梅などの高級浴衣の仕立て依頼が来はじめています。

背縫いの補強や下着が透けるの防ぐ居敷当て(お尻のところに付いてい布)についてちょっと説明をします。

絞りや紅梅などでない、あまり伸びない真岡生地の浴衣の場合、付けても付けなくてもお好み次第です。付ける場合、共の生地で付けたり、新モス(白の綿生地)で付けたりします。並幅のもので約40cm程度の布を付けます。私たちは、下の図のように角を折って、三辺を身頃にくけ付けます。角はすくい止めをして、しっかりと留めます。裾側の辺はくけ付けずに、折り代を綴じておきます。位置は裾から約45cm程度を目安にして、背の高い方はちょっと上に付けます。浴衣の反物の長さは短く、身丈の長い方は、新モスで代用します。

では、絞りの浴衣はどうでしょうか?絞りは着ているうちに伸びてしまいますので、居敷当てを付けることを勧めています。

上の図の居敷当てだと、ちょっと小さいので、後身頃の内揚げの位置(身八ッ口から少し下がった辺り)から裾までの居敷当てを付けるようにしています。共の生地では、長さが間に合いませんので新モスを使います。

絞り浴衣の居敷当て

絽紅梅など透けるものは、裾の三つ折りの所から、約1cm上がったところまで居敷当てを付けます。

最近では高級浴衣を広衿に仕立てて、単衣着物のように着られる方もいますが、透ける場合は長襦袢の色に気をつけましょう。

2015年5月29日 | カテゴリー : 仕立て | 投稿者 : 和裁屋

「俵かがり」をやってみました・八寸名古屋帯(かがり帯・袋名古屋帯)の色々な仕立て方

「俵かがり」をやってみました・八寸名古屋帯(かがり帯・袋名古屋帯)の色々な仕立て方

 

名古屋帯は、生地の幅によって呼び名が変わります。約36cmの幅の物を九寸名古屋帯、約30cmの幅の物を八寸名古屋帯と呼びます。

九寸名古屋帯の生地は、紬や縮緬、塩瀬羽二重などがあり、中に帯芯を入れます。それに比べ八寸名古屋帯は生地の厚い博多織や綴織りなどがあり、帯芯は入れません。耳端をかがり、仕立てます。締められる方の好みで、生地が薄い場合や厚目が良い方は、お太鼓や手の裏側に帯芯を綴じ付ける場合もあります。

 

◆八寸名古屋帯の仕立て方は、大きく別けて3種類あります。

1.総かがり

 

総かがり

 

お太鼓、胴(垂れ境から手先)全てをかがります。出来上がりの形は九寸名古屋帯と同じですが、耳端をかがりますので、九寸名古屋帯のように帯幅の融通はききません。

 

2.松葉かがり

 

松葉かがり

 

垂(お太鼓)は全部かがり、手先から約38cmかがります。胴の部分はかがっていないので、好みによって幅を変えることが出来ますが、帯地の厚みにもよりますが、幅が決まらずプカプカして浮いてしまう場合もあります。

 

3.トンネルかがり

 

トンネルかがり

 

垂先から20~30cm程度と、垂境から約10cmをかがり、お太鼓中心はかがりません。夏帯の絽や紗の場合に、この様な仕立て方をする場合があります。お太鼓中心は、かがっていないので、2枚の布が重なり動く様が涼しげです。手先は細く三つ折りにして、ミシンで押さえたり、くけたり、かがったりします。「2.松葉かがり」の様に手先のみ短くかがる場合もあります。

 

◆かがり方について

かがり方の方法として、巻きかがり・スカラップかがり・千鳥かがり・俵かがりがあります。帯地の織り方、色、などを考慮して一番目立たない方法でかがります。

 

巻きかがりの様子

 

上の写真は巻きかがりの様子です。

 

私は、4cmの間に38針程度でかがっています。

 

間隔は、帯地にもよります。

 

◆特殊なかがり方・俵かがり

私が和裁の世界に入った頃(今から約30年前)、綴帯の垂裏には織り止めから数10cm位(記憶は定かではありません)無地の部分が長く織ってあり、その部分の横糸を取って、かがりの糸にしました。現在ではその無地の部分が付いている綴帯は少なくなったような気がします。無地の部分から取り出した織り糸を使って、耳端を三つ編みのように、かがってゆくのが「俵かがり」または「蛇腹かがり」です。

 

2つの駒に糸を巻きます。特大の安全ピンで作った物です。

 

取り出した糸を駒に巻き、特大の安全ピンで作った物にセットし、穴に通します。写真は三つ編みの状態が分かるように、糸の色を変えてあります。

 

けんちょうき(懸吊機)を2台くっつけて布を張ります。(撮影のため短い布を使っています)

 

けんちょうき(懸吊機)2台を紐で縛り、2つの掛け張りを使って布を張ります。(撮影のため帯芯で短い布を使っています)

 

俵かがり

三本の糸を使ってかがります。

 

かがり始めは、2つの駒に巻いた糸の結び目を、布の間に入れ、かがる糸で固定します。(撮影のため、糸の色を変えています)

 

俵かがり

 

駒を返す順序を間違えないように、かがってゆきます。

 

私は、このくらいの間隔でかがっています。

 

この様に、三つ編みのかがり方が俵かがりです。実際は同色の糸でかがります。

 

結構、時間がかかって、目が疲れます~

 

本綴総かがり(俵かがり)の仕立て代は25,000円(税抜き)です。

留めにも色々あります(袖付け、身八ツ口などの留め)

留めにも色々あります(袖付け、身八ツ口などの留め)

袷衣や単衣の着物・長襦袢・羽織などの袖付けや身八ツ口の留めを説明します。

※私たちが行っている仕立て方です。地域によってその呼び方、仕立て方が異なります。ご了承ください。

◆力布

袖付けや身八ツ口は着る時など力が加わるので、補強の意味もあって、私たちは、袷衣も単衣も袖付けや身八ツ口の裏側、手前と反対側に「力布」を付けています。「力布」は約0.8cm正方の小さな布で、素材は胴裏地(白色)を使いますが、絽や紗のものは透けてしまいますので、同色の物や表地の「力布」を使います。表地が絹ならば絹、麻だったら麻の「力布」を付けます。

色々な「力布」

身八ツ口(脇止まり)や袖付けなど、留めから約4cmは半返し縫いまたは縫い返し縫いで、更に補強をしています。

身八ツ口や袖付けの縫い方上の写真は分かりやすいように色を変えて縫っています。

◆かんぬき留め(虫留め)

単衣のきものや長襦袢、単衣の羽織、袷衣・単衣コートの袖付けや身八ツ口、袖口明き、名古屋帯の垂境、袴などにもにかんぬき留めをします。虫がとまっているようなので「虫留め」とも呼ばれているようです。

1.身八ツ口や袖付け、袖口明きなどに、縫い糸を2本渡します。

身八ツ口や袖付けなどに2本縫い糸を渡します。

2.渡っている2本の糸の下を針のメド(穴の空いている方)からくぐらせます。針先からくぐらせると布を引っかけてしまい、寸法を直したり洗い張りの際にかんぬき留めと一緒に布を切ってしまわないための工夫です。

2本の糸の下を針のメドからくぐらせます。

3.更に編んでゆくような感じで、糸を結んでゆきます。

糸を編む様に結んでゆきます。

4.一杯まで結んで完成です。下の写真はちょっと見づらいですが、順序よく糸が並んで結んであればOKです。

一杯まで結んで編み、かんぬき留め(虫留め)の完成です。

◆笹べり(八ツ口・人形)

笹べり(八ツ口・人形とも言われます)

婚礼用貸衣装や仕事用きものなど、かんぬき留め以上に補強する場合は上の写真の様な「笹べり」を付けます。主に袖付け、身八ツ口、袖口、男物の袖付けにも付ける場合があります。「八ツ口」とか「人形」とも呼ばれているようです。

布の性格を考えて(大島の仕立て)

先回のブログに関連した内容です。

袷着物は、表地(きもの地)・胴裏地・八掛と三種類の生地で成り立っています。
胴裏地は糸の太さ、糊の量などいろいろありますが、縮み具合はそれほど大差はありません。
八掛は染めや糸の太さ、織り方も様々で紬の八掛以外は、とても縮むものもあります。
表地は縮緬、お召し、羽二重、紬等など八掛以上に、千差万別で地直しの作業は、布の端で色々試してから行っています。

その中の紬といえば結城紬、白山紬、信州紬などありますが、大島紬は同じ紬絹織物でも織り糸の性質が違い殆ど縮みません。(布の縮み具合:参照)
大島紬を仕立てて時間が経過すると、下の写真のように胴裏地や八掛が縮んだ結果、表側がビリ付き、緩んだ状態になってしまいます。

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布は縮みます(布の縮み具合)

布は縮みます(布の縮み具合)

私たちが縫っている殆どが、絹製のものです。同じ絹物でも織り方によって縮み具合が大きく違います。

例えば、大島紬の織り糸は撚りがなく、縮みません。それに対して縮緬は縮みます。

下の写真は、色無地着物でアイロンを当てただけでとても縮んでしまいました。

色無地着物の縮んだ様子

私たちは仕立てを行う前に、必ず「地直し」を行います。その方法は布地の上に綿製の当て布を広げ細かな霧を吹き、じっくり時間を掛けてアイロンを当てます。

縫っている最中やその後も生地が縮んでしまわないようにするためで、袷着物で数時間掛けて地直しをします。その後、一晩寝かせ、裁断、縫製の作業となります。

以下、どれくらい縮むのかを上記の方法でテストしてみました。(※ほんの一例です。織り方、染め方、糊の具合や製造メーカーによって違いがあります)

物差しの目盛りは1mあたりどのくらい縮んだかを示します。

大島紬は縮んでいません。

八掛は3.2cm

胴裏地は1.1cm

その他にも、測ってみました。

長襦袢地は1.8cm

絽喪服は2.5cm

帯芯は0.4cm

全て1mあたりの縮み具合です。結構、縮みますね。

※著しく幅や長さ、地の目を狂わす場合は、この方法で地直しはいたしません。寸法等を確認して、適した地直し法でアイロンを当てます。