掛け衿と半衿の話

女物大島の掛け衿

現在、着物には掛け衿という本衿(地衿)の上にもう一枚、共地の布が付いています。

女物袷着物の掛け衿

掛け衿の役目は本来、布の補強と汚れたら掛け衿を取り外し、洗ったり出来ます!という布です。半纏や時代劇によく出てくるパターンで、娘さんが着ている黄色地に格子の着物の衿に、黒繻子が付いているのを見かけたことがあると思いますが、同じ発想ですよね。昔はクリーニングも無かった時代で、洗うと言えば「洗い張り」だったんでしょうね~。だからよく汚れる首回りの掛け衿を、簡単に取り外せる工夫をしたのでしょうね。

私が仕事を始めた20数年前までは、反物を裁断する時に、掛け衿を交換するように、二枚取る裁断法がありました。

女性物の掛け衿

地方などによって変わりますが、女性物着物の掛け衿の長さは、着物の種類によって変えています。浴衣は剣先から約10cm程度を目安に(背からの長さは45cm程度)、着物(袷・単衣)となると浴衣より少し長めで背からの長さは48cm程度です。衿肩明きや繰り越しが大きい場合や、反物の長さが短い場合はこの限りではありませんが、このくらいを目安に仕立てていました。でも、最近ではもう少し長めで50cm程度が多いようです。昔の着姿は帯揚げの上に掛け衿先が見えていた方が多く、現在は長めになったために掛け衿先が見えない着姿を見るようになりました。

男性物の掛け衿

男性の着物は、女性物と比べ剣先が高く(衽下がりが短い)、掛け衿の長さは40cmちょっとでしょうか。

仕立て方について

・別付け別納め

地元の呉服屋さんで一軒、きものの掛け衿を「別納め」にして下さいという指示をしていたお店がありました。長襦袢の半衿のように本衿の上にのっているように付けます。衿裏側から見ると下のイラストのようになります。掛け衿のみが取り外せます。私たちはこの掛け衿の付け方を「別付け・別納め」と呼んでいます。バチ衿、棒衿でも別納めの場合、本衿を出来上がりにくけ付け(納め)てから、掛け衿を本衿にくけ付け(納め)ます。

浴衣以外の着物の場合、本衿を身頃に付けてから、掛け衿先を縫い付け、本衿付けの根元に掛け衿をくけ付けます。(別付けといいます)

別付け束納め

現在、着物の掛け衿で多いのは、「束納め」です。仕立ての最後に本衿を掛け衿で包み、衿裏と表衿(本衿・掛け衿)を本ぐけします。この方法は「別付け・束納め」とよんでいます。

・束付け束納め

それに対して浴衣は、本衿に掛け衿を綴じ付けてから、掛け衿と本衿を一緒に身頃に縫い合わせ、衿幅で折り返し、掛け衿で本衿を包み一緒に身頃にくけ付ける(納める)方法で、この方法を「束付け・束納め」と呼んでいます。

現在、自宅で掛け衿を外して、掛け衿だけを洗って(染み抜き)、そして掛け衿を縫い付けるという作業をする方が殆どいなくなりました。着物もクリーニングする時代で、手軽に丸洗い出来てしまうので、こんな仕立て方に変わってきたようですね。

半衿について

長襦袢の半衿

長襦袢には正絹(絹100%)や化繊物の半衿を付けます。白や刺繍が施してある物、ビーズで出来た物やバイアスに織った物もあります。男物のように色が付いた物など様々な物が出回っています。

長襦袢の「ジュバン」の語源はポルトガル語の下着を意味する言葉といわれています。昔、肌が直接触れる襦袢の衿には、手ぬぐいを縫い付けたそうです。時間が経って、お洒落に、粋な半衿が出回るようになりました。呉服店の名前で「えり○○」とか看板で見かけるかと思いますが、昔は半衿やさんだったケースが多いと聞きます。

あれ!左右逆じゃない?(柄の合わせ方2)

あれ!左右逆じゃない?(柄の合わせ方2)

先日、テレビを見ていたら、妻が「あれ、左右逆じゃあない?」と、言ったのでテレビを見てみると

左右逆?

とあるファッションモデルの方が、右身頃が上にして着ている浴衣姿の写真が映し出されていました。ブログ??ツイッター??の写真とのこと・・・・

よーく見るとちょっとピントがあまい写真で、私は「鏡で映して撮ったんじゃあ無いのかな?」なんて返事をしましたが、説明無しに写真だけ見ると、逆に着ています。

私たちが、浴衣などの比較的大きな柄物を裁断する時に、特に気を遣うのが、左前身頃の柄なので、左右逆に着たきものを見ると「なんか変じゃあない???」と2度見してしまいます(^^;)

ここで、着物の柄合わせについて、ざっくり説明します。

基本的な柄合わせ

基本的な柄合わせは上のイラストのように、全体に柄がくっつかないようにします。

ポイントは、

①左身頃(上前)の胸辺り、上向きの柄を配置します。

②上前衽の裾から50cm~60cm程度の所に上向きの柄、その柄と交互になるように上前身頃の柄を配置します。

③後身頃裾から50cm程度の所に柄を配置して、反対側の身頃の柄が交互になるようにします。

その他:袖の柄、掛け衿の柄も身頃の柄と並ばないように、注意します。あと、着た時に以外と目立つのが、左脇の柄ですね。脇も前後身頃の柄が並ばないように注意します。

一反の反物の長さはおよそ決められていて、特に浴衣の反物は短いものも多く上のイラストのようには、うまくゆかないものもありますが、全体に柄が散らばって配置されるようにします。加えて、着る方の寸法もありますので、上前の胸、衽の柄、全体の柄の配置といった順番で、優先順位を付けて見積もりをします。

・その他、一方向きの柄もあります。

上のイラストのように、右身頃の後・右袖の後の柄を立たせる、左身頃の前・左衽・左袖の前の柄を立たせる、また、左右前身頃・前袖の柄を立てる、後を立てる・・・・・などなどパターンがあります。

・片側が色の違う反物もあります。

同じ色をくっつければすっきりした感じの着物となり、色目にもよりますが、交互にすれば派手目となります。

交互にする(追い裁ち)

色を揃えた場合

私たちは、着られる方と相談して、イメージを作ってから仕立てに取りかかっています。

ふと思ったんですが・・・・・

現在の着方、右衽(右身頃)を先に着てから、左衽(左身頃)を合わせるという着方は、奈良時代に決まったことですが、これから数十年後、時が経って「和服もファッション!」と有名なモデルさん達が言い始めれば、左右関係無しにきものが着られる時代が来てしまうかもしれませんね?

でも、現在では左右逆に着る場合は、棺桶に入っている方の経帷子だけですので、くれぐれもお間違えの無いようにしましょう!

死者の着物(経帷子)は逆に着せます。

留めにも色々あります(袖付け、身八ツ口などの留め)

留めにも色々あります(袖付け、身八ツ口などの留め)

袷衣や単衣の着物・長襦袢・羽織などの袖付けや身八ツ口の留めを説明します。

※私たちが行っている仕立て方です。地域によってその呼び方、仕立て方が異なります。ご了承ください。

◆力布

袖付けや身八ツ口は着る時など力が加わるので、補強の意味もあって、私たちは、袷衣も単衣も袖付けや身八ツ口の裏側、手前と反対側に「力布」を付けています。「力布」は約0.8cm正方の小さな布で、素材は胴裏地(白色)を使いますが、絽や紗のものは透けてしまいますので、同色の物や表地の「力布」を使います。表地が絹ならば絹、麻だったら麻の「力布」を付けます。

色々な「力布」

身八ツ口(脇止まり)や袖付けなど、留めから約4cmは半返し縫いまたは縫い返し縫いで、更に補強をしています。

身八ツ口や袖付けの縫い方上の写真は分かりやすいように色を変えて縫っています。

◆かんぬき留め(虫留め)

単衣のきものや長襦袢、単衣の羽織、袷衣・単衣コートの袖付けや身八ツ口、袖口明き、名古屋帯の垂境、袴などにもにかんぬき留めをします。虫がとまっているようなので「虫留め」とも呼ばれているようです。

1.身八ツ口や袖付け、袖口明きなどに、縫い糸を2本渡します。

身八ツ口や袖付けなどに2本縫い糸を渡します。

2.渡っている2本の糸の下を針のメド(穴の空いている方)からくぐらせます。針先からくぐらせると布を引っかけてしまい、寸法を直したり洗い張りの際にかんぬき留めと一緒に布を切ってしまわないための工夫です。

2本の糸の下を針のメドからくぐらせます。

3.更に編んでゆくような感じで、糸を結んでゆきます。

糸を編む様に結んでゆきます。

4.一杯まで結んで完成です。下の写真はちょっと見づらいですが、順序よく糸が並んで結んであればOKです。

一杯まで結んで編み、かんぬき留め(虫留め)の完成です。

◆笹べり(八ツ口・人形)

笹べり(八ツ口・人形とも言われます)

婚礼用貸衣装や仕事用きものなど、かんぬき留め以上に補強する場合は上の写真の様な「笹べり」を付けます。主に袖付け、身八ツ口、袖口、男物の袖付けにも付ける場合があります。「八ツ口」とか「人形」とも呼ばれているようです。

布の性格を考えて(大島の仕立て)

先回のブログに関連した内容です。

袷着物は、表地(きもの地)・胴裏地・八掛と三種類の生地で成り立っています。
胴裏地は糸の太さ、糊の量などいろいろありますが、縮み具合はそれほど大差はありません。
八掛は染めや糸の太さ、織り方も様々で紬の八掛以外は、とても縮むものもあります。
表地は縮緬、お召し、羽二重、紬等など八掛以上に、千差万別で地直しの作業は、布の端で色々試してから行っています。

その中の紬といえば結城紬、白山紬、信州紬などありますが、大島紬は同じ紬絹織物でも織り糸の性質が違い殆ど縮みません。(布の縮み具合:参照)
大島紬を仕立てて時間が経過すると、下の写真のように胴裏地や八掛が縮んだ結果、表側がビリ付き、緩んだ状態になってしまいます。

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連続する柄(柄の合わせ方1)

連続する柄(柄の合わせ方1)

大島紬の「麻の葉」柄の仕立ての依頼がありました。

反物からの仕立てです。

以下の格子・市松・亀甲など、連続した柄は出来るだけ一つの柄になるように仕立てます。

翁格子

市松

亀甲

裁断前に、身長に合わせ見積もりをし、更に後幅、前幅、衽幅から衿や袖の付く位置などに待ち針を打ち、一つずつ柄を合わせてゆきます。

一反の反物が続いていますので、やり辛いですが、慎重に位置を決めてゆきます。

着られる方の体型、柄の大きさ、反物の長さによっては、どうしても全てが一つにはなりません。

和服裁縫時の大前提として、「仕立て直しが出来ること」です。

衿肩明き以外の大きな切り込みはせず、縫い代は裁ち落としたりはしません。

寸法や体型を無視して柄を合わせることに徹底すればできますが、縫い代の深さや、その差に取り決めがあり

脇なども考慮しないと、着辛いものになってしまいます。

更に、衿が付くところや、衽付けなどは斜めに柄合わせをします。順序は背、上前(左前)の衽付けの柄合わせをし、脇の柄を確認します。

脇の縫い代の深さを測り、前身頃と後身頃の縫い代の差があまりにも多い場合には、衽付けの縫い代の量を加減します。

柄の間隔が違っている場合や斜めに付く箇所は目立つポイント箇所で合わせます。

柄が合うことが確認できたら、裁断します。和服は全く同じものがなく、大島紬などは、反物の長さが短く、裁断は慎重にならざる終えません。

裁断前の柄合わせだけで数時間、または頭をリセットする意味で、改めて翌日、なんてこともあります。

全て縫う箇所を確認しますので、ほんと、時間がかかります。

後身頃

前側(掛衿、上前衽付けの柄を合わせました。袖付けは横段を合わせました)

掛衿:剣先から少し上のポイントで合わせることが出来ました。

今回の麻の葉柄は、背の柄と、上前(左前)衽、掛け衿(共衿)の柄が合いました。

袖付けや、脇はちょっとずれてしまいましたが、これが限界でした。

体型によって柄が合わない場合がありますが、このような連続した柄は、出来るだけ柄を合わせるように心掛けています。

この大島紬の仕立て代は48,000円(税別)~ です。