ブログ:和裁屋日記

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単衣の仕立て⑤

先回は、単衣の縫い額縁まで説明させていただきました。

肩当てについて

今回は、肩当てと衿について説明させていただきます。

肩当ては、衿肩明きの大きく切った部分を補強する布で、以下のようなものがあります。

・ハート型

私達はこの形が一番多く付けています。浴衣やウールなどの透けない物に付けます。

一昔前の浴衣や透けない単衣物などに多く付けられている形です。これもハート型です。

・三日月

絽や紗など透ける物は、以下のような肩当てがあります。

一番スタンダードな「三日月型」です。

上の写真は長襦袢の三日月布です。

羽織やコートなど透ける生地に付ける長い三日月布です。

◆衿について

原則、女物浴衣はバチ衿ですが、着る方の要望に合わせ広衿にする場合もあります。広衿にする場合、衿裏は生地の素材に合わせて衿裏を用意します。浴衣は新モス、化繊は化繊の衿裏、麻と絹物は絹の衿裏というようにします。

女物着物の広衿の縫製方法は、本衿と裏衿で身頃を挟み、標を合わせて縫い合わせます。本衿を先に付けてから、本衿に掛衿を縫い付けますので(このことを掛衿の別付けと言います)、掛衿が汚れた場合、比較的スムーズに掛衿を外すことができ、掛衿のみの染み抜き等ができます。それに対し浴衣の衿は、掛衿を本衿(地衿)に付けてから、衿付けをします。(掛け衿の束付けと言います)

・その他の衿の種類

女物長襦袢:広衿・バチ衿・広バチ衿・田之助衿 男物・子供物(着物・長襦袢):棒衿

単衣の仕立て④

単衣の仕立て④

先回は単衣の着物の衽まで説明させていただきました。

浴衣は「切り額縁」でそれ以外の物は、今回は衽の先端の「縫い額縁」で縫製します。

縫い額縁

1.浴衣(綿物)以外の物(絹・ウール・麻等)には縫い額縁をします。立妻は0.5cm、裾は1cmの出来上がりの場合下図のように裏側に標を付けます。線①②③④は外表に折りを付けます。

2.線③上で裾の出来上がり幅1cm上の点をA、線④上で立妻の出来上がり幅0.5cm内側の点をC、線②と線③の交点をBとし、この3つの点を一直線に結びます。

3.点Aと点Cを中表に合わせ、線上を細かく半返しで縫い合わせます。

4・半返し縫いで縫ったところを縫い割にします。

5.表に返し、額縁先端を整え、くけ代を内側に折り込みます。

6.図のように衽布にくけ付けます。

表側には折りぐけのくけ目が出ます。

単衣の仕立て③

先回は単衣の着物の脇まで説明させていただきました。

今回は、衽(おくみ)付け等を説明させていただきます。

◆ウールなどの衽納め

ウールなどのミシン仕立てや、化繊などの安価なものは前幅の標と衽幅の標を縫い合わせ、縫い代は衽側へ倒します。(浴衣と同様です)

衽納めは前身頃の縫い代を1cm程度折り、衽布にくけ付けます。(浴衣の折りぐけと同様です)

◆正絹(絹織物)の式服などの衽付け縫い目隠し

正絹(絹織物)の式服などは、以下のように縫い目隠しで縫製します。

1. 前身頃の前幅標の4mm外を裏側へ折ります。

2.衽布を手前にし、衽の幅の標と前幅の標を縫い合わせます。

3.衽布側へ被折りをします。

4.下図のように衽布と前身頃を広げ、前身頃縫い代を衽側へ倒します。

5.前身頃縫い代に裾くけ幅分切り込みを入れ、前身頃縫い代を折り、衽布にくけ付けます。絽など布地が薄く透ける場合には、衽布縫い代と重なるように前身頃縫い代を深く折り、衽布にくけ付けます。

次に続きます。

単衣の仕立て②

単衣の仕立て②

先回は、単衣の背縫いまで説明させていただきました。

(先回のブログはこちらから)

今回は、脇縫いを説明させていただきます。

◆単衣着物の脇

脇縫いの方法として、脇縫いをして脇縫い代を前身頃側に倒し脇納めをする方法と、ウールなどで行うミシン縫いをした場合に「縫い割る」方法、絹単衣着物などに行う「縫い目隠し」の方法があります。

◆片側に倒す方法

手縫いの場合は、浴衣より細かく、素材に応じた針目で脇を縫います。次に前身頃に縫い代を倒し、裾から裾くけ代分上がったところで、折りぐけ代分切り込みを入れ、脇縫い代を折りぐけで身頃にくけ付けます。後身頃いっぱいに居敷当てが付く場合、この方法で居敷当ても一緒に、くけ付ける場合がありますが、薄物や絽小紋など裏側の色が透けてしまう場合は、くけ代や居敷当てを織り込む位置など、工夫をします。(ミシン仕立てでもこの方法で行うことがあります)

折りぐけ

◆ウール着物などミシン縫いの場合で縫い割りにする方法

ウール着物などのミシン仕立てで行う方法です。脇縫いをした後、脇縫い代を下図のように脇縫い縫い目で縫い割り(縫い代を広げて割る)にします。

鏝(こて)などで、しっかり縫い目を押さえます。

裾から裾くけ代分上がったところで、折りぐけ代分切り込みを入れ、脇縫い代を折りぐけで身頃にくけ付けます。

◆絹単衣着物などに行う「縫い目隠し」

始めに通常通り脇縫いをし、その縫い目から約4mm程度上を空縫いします。

脇縫いで被折りをし、前身頃へ縫い代を倒します。次に空縫いに沿って脇縫い代を開きます。

裏側から脇縫いと空縫いの間に綴じを入れます。

裾から裾くけ代上がったところで、脇納めのくけ代分、切り込みを入れます。絽など表側から見て、透ける物などは脇納めのくけ代分を深くする場合があります。

居敷当てが付く場合は、「片側に倒す方法」で脇納めをします。地方によって、呉服店によっても「縫い目隠し」をしたり、しなかったりします。

縫い目隠しにまつわる師匠との雑談で・・・・

この縫い目隠しの方法(脇、衽、など縫い目隠しにします)は、中部地方あたりで行われ始めたそうで、昔、東京から来られた和裁の先生が、この縫い目隠しの方法を見て、「縫い目が見えないなんて、粗く縫って飛ばす方法だ!縫い目のあら隠しだ。東京の職人は、縫い目を見せて仕立てをしている。」と言われたことがあるそうです。

この言葉を胸に、私達はきちんと単衣の縫い目で縫っています。

次回に続く・・・・・

単衣の仕立て①

単衣の仕立て①

先回は、浴衣の仕立て方について説明させていただきました。

今回からは、単衣の仕立て方について説明いたします。

浴衣以外の単衣物の生地としては、絹物は夏大島や夏塩沢など全国津々浦々産地がありますが、麻は○○上布と名前が付く越後上布が有名で、他には小千谷縮などが有名ですね。木綿生地では久留米絣やしじら織りなど。沖縄の芭蕉布もありますが、その他、化繊やウールなども単衣着物の反物として使われています。

余談ですが・・・・・

そう言えば、現在ではもう見ることが殆どなくなってしまったウール・・・・30年以上前、私の修業時代、晩秋から年末はウールアンサンブル(着物と羽織)の仕立物が、ドーンと来ました。修業1年目ではウールの仕立てが多く、ウールの毛が部屋中に漂う中、仕事をしていました。また、モス(毛斯と書きます。ウール製)の長襦袢も、男物、女物問わずありました。お正月には皆さん、ウールのアンサンブルを着て、初詣に行ったり、コタツでミカンを食べながらくつろいでいましたっけ。

今では、反物を織る業者さんも殆どなくなってしまい、私たちの所へ来る仕立物は、皆無となってしまいました。

本物のウール織物は染めた糸で織ってあるので、表裏が区別付きません。中にはプリント(片面染めのもの)の物もありました。女物は主に連続した椿や井桁、格子柄などの柄があしらわれていて、可愛らしい子供用の物もありました。アンサンブルは羽織と着物の柄の関係など考慮し、裁断時には何度も確認をして鋏を入れます。

絹などの単衣物の仕立て方は、浴衣より手間暇掛けて仕立てます。縮みますのでアイロンを掛けて地直しをし、横糸を真っ直ぐにします。裁断にも気を遣います。着物は後で縫い直せるように内揚げ(身頃の腰あたりに摘まむ縫い代)と衽や衿などの各パーツの縫い代も考慮して裁断します。

浴衣はパリッとしていて糊が効いていますので、サッと折りが付けられますが、縮緬など絹物は柔らかくて薄く、手縫いの場合は、浴衣より細かい針目で縫い、折りが付きにくいので、時間を掛けてしっかり押さえながらの作業となります。単衣着物の仕立て方は、伸び縮みもしますので、浴衣よりワンランク上の仕立て方となり時間が掛かります。

◆単衣着物の背縫い

単衣着物の背縫いは、浴衣とは違い、袋縫い・伏せ縫い・別背伏せ布・共背伏せ布などの方法があります。

袋縫い

1.ウール生地などの背縫いに「袋縫い」という方法で背縫いを行います。始めに身頃の生地を外表(外側に表側が来るように)に合わせ、下図のように右身頃を4mmずらし、2mmの所を空縫いします。(ずらさずに縫う方法もあります)四ッ山から裾くけ代分上がったところまで、縫います。

2.裾で、裾くけ代分(2cm程度)のところで、下図のように空縫いより少々深く切り込みを入れます。

3.左身頃側に、空縫い縫い目より極浅い被(きせ)折りをします。

4.中表にして、3で折った被(きせ)山から2mm程度、右身頃を出して折りを付けます。背縫い代は左身頃側に倒れるため、右身頃を2mm程度出します。

5.下図のように、裾から1cmの深さで背縫いをします。その後、縫い返しもします。(背縫い代は左身頃側に倒れるため、裾を右側にして見える方を手前にして縫うためです。サウスポーの方は、逆で、四ッ山から縫い始めます。)裏側から背縫いの縫い目が見えます。

伏せ縫い

1.「伏せ縫い」という方法も、主にウールなどの背縫いで行います。中表(表側を合わせ、内側が表になるように)に合わせ、5mmほどずらし、下図のように1cmの深さで背縫いをします。縫い返しも行います。この状態で、身頃の標付けを行います。

2.標付け後、裾から裾くけ代分のところで、ずらした身頃(右身頃)の5mmの深さで切り込みを入れます。背縫い代を左身頃側に倒し、被(きせ)折りをします。

3.切り込みを入れた裾から、四ッ山まで、1cmの背縫い代を包み、身頃に「折りぐけ」でくけ付けます。裏側からは背縫いの縫い目が見えます。

4.表側には、くけ目が出ます。縫い代が動かない背縫いの方法です。

別背伏せ布

別の布を使って、背縫いをする方法です。主に絹単衣物に使われます。色は様々なものがあり、私が知る限りでは、絹物と化繊の背伏布があります。

幅は3㎝程で長さは1.7m程度の薄いテープ状の布です。

1.身頃の布を中表に合わせ、裾から裾くけ代分あがったとことから、四ッ山まで別背伏布を付けます。1cmの背縫い代が包めるように、背伏布の幅を考慮して背伏布の縫い代(私は6mm位です)を決め3枚一緒に縫い合わせます。背伏布は、殆ど縮みませんので、身頃の生地の性質を考えて付けます。

2.背縫いの縫い目に対して、殆ど被(きせ)をかけず背伏布を縫い目に沿って折り返します。

3.1cmの背縫い代を包み、縫い目に背伏布を本ぐけ(ほぼ縫いと同じ間隔)でくけ付けます。裏側から見ても、背縫いの縫い目が見えません。

別背伏布

※呉服店によって、上記2の状態で標付けをして、その後、伏せ縫いのように別背伏布を身頃にくけ付ける場合もあります。(この場合は、表側にくけ目が出ます)

共背伏せ布

上の別背伏布を、同じ生地で背縫いをする場合「共背伏」と言います。衿・衽の中央からテープ状に共背伏を取ったり、残布から何本かを継ぎ合わせて背伏布にします。縫い目にくけ付けたり、身頃にくけ付けたりします。厚みが増して、別背伏布等より背縫い代がゴロゴロします。

次回に続きます・・・・・・