作り帯・切り帯

作り帯・切り帯

最近、作り帯や切り帯の仕立て依頼がちょくちょく来ています。これらは、簡単に帯を締めるために工夫されたもので、早く着付けをしたいとか、腕が回し辛くなった方などに好評です。

呼び名は地方によって色々あると思いますが、作り帯は帯を切らずに作る仕立て方で、切り帯とか、付け帯はお太鼓(垂)・胴・手先の三つの部分に切って作ります。

・作り帯

切らずにお太鼓(垂)部分を畳み、手先をお太鼓に差し込み、胴回りを二重にし、紐を付けます。

お太鼓の大きさや手先を出す量は、お好みで、少々短い帯でも締められるメリットはありますが、上の写真の様に胴・手(お腹)のポイント柄の場合、初めに決めた位置から自由に動かせないというデメリットがあります。

・切り帯

作り帯に対して、お太鼓(垂)・胴・手先の三つのパーツに切って、お太鼓(垂)と手先を組み合わせて畳んで綴じ、胴には両端に紐を付けます。この形以外にも、お太鼓結びの形に畳まず、垂に手先を付けただけのものもあります。上の作り帯に対して、胴(手)が切り離されていますので、お腹のポイント柄の位置はある程度自由に移動ができます。

デメリットは、やはり切ってしまうことですね。切る位置は締めた時に見えない位置ですので、継ぎ足せば元の帯に戻りますが、長さは短くなります。

・変わり結び

切り帯(変わり結び)

日本舞踊を踊っている方からの依頼で、見本をお借りし、袋帯を変わり結びにしました。但し、真っ平らにはならないので、保管には箱に入れて収納しないといけませんね。

【注意点】

以前、作り帯や切り帯にしていない長い帯に締め慣れている方に、切り帯を締めてもらったところ、「締め辛い」とのことでした。いつも締め慣れているものが、一番でしょうか?

また、着付け初心者の方は、古い帯を切り帯にしたところ締めやすいと好評で、その後、何本も持ってこられました。

現在、七五三などの既製品で裏側に金具が付いていて、胴(手)に差し込むだけで簡単に締めることができる帯が出回っています。これで気軽に着物を着ていただけることには嬉しいのですが、歩く後ろ姿はパカパカと浮いて、おかしなものもあります。着物を使うTPOに合わせて帯も使い分けないといけないのでしょうね。

あれ!左右逆じゃない?(柄の合わせ方2)

あれ!左右逆じゃない?(柄の合わせ方2)

先日、テレビを見ていたら、妻が「あれ、左右逆じゃあない?」と、言ったのでテレビを見てみると

左右逆?

とあるファッションモデルの方が、右身頃が上にして着ている浴衣姿の写真が映し出されていました。ブログ??ツイッター??の写真とのこと・・・・

よーく見るとちょっとピントがあまい写真で、私は「鏡で映して撮ったんじゃあ無いのかな?」なんて返事をしましたが、説明無しに写真だけ見ると、逆に着ています。

私たちが、浴衣などの比較的大きな柄物を裁断する時に、特に気を遣うのが、左前身頃の柄なので、左右逆に着たきものを見ると「なんか変じゃあない???」と2度見してしまいます(^^;)

ここで、着物の柄合わせについて、ざっくり説明します。

基本的な柄合わせ

基本的な柄合わせは上のイラストのように、全体に柄がくっつかないようにします。

ポイントは、

①左身頃(上前)の胸辺り、上向きの柄を配置します。

②上前衽の裾から50cm~60cm程度の所に上向きの柄、その柄と交互になるように上前身頃の柄を配置します。

③後身頃裾から50cm程度の所に柄を配置して、反対側の身頃の柄が交互になるようにします。

その他:袖の柄、掛け衿の柄も身頃の柄と並ばないように、注意します。あと、着た時に以外と目立つのが、左脇の柄ですね。脇も前後身頃の柄が並ばないように注意します。

一反の反物の長さはおよそ決められていて、特に浴衣の反物は短いものも多く上のイラストのようには、うまくゆかないものもありますが、全体に柄が散らばって配置されるようにします。加えて、着る方の寸法もありますので、上前の胸、衽の柄、全体の柄の配置といった順番で、優先順位を付けて見積もりをします。

・その他、一方向きの柄もあります。

上のイラストのように、右身頃の後・右袖の後の柄を立たせる、左身頃の前・左衽・左袖の前の柄を立たせる、また、左右前身頃・前袖の柄を立てる、後を立てる・・・・・などなどパターンがあります。

・片側が色の違う反物もあります。

同じ色をくっつければすっきりした感じの着物となり、色目にもよりますが、交互にすれば派手目となります。

交互にする(追い裁ち)

色を揃えた場合

私たちは、着られる方と相談して、イメージを作ってから仕立てに取りかかっています。

ふと思ったんですが・・・・・

現在の着方、右衽(右身頃)を先に着てから、左衽(左身頃)を合わせるという着方は、奈良時代に決まったことですが、これから数十年後、時が経って「和服もファッション!」と有名なモデルさん達が言い始めれば、左右関係無しにきものが着られる時代が来てしまうかもしれませんね?

でも、現在では左右逆に着る場合は、棺桶に入っている方の経帷子だけですので、くれぐれもお間違えの無いようにしましょう!

死者の着物(経帷子)は逆に着せます。

和裁の「縫い」一覧

和裁の「縫い」一覧

引き出しを整理していたら、修業時代に和裁を勉強する後輩達に、運針(縫い方)を教える時に使った「縫い」の見本が出てきました。

縫い目の一覧

単衣の背縫いに使う「袋縫い」から始まって、玉留め、返し留め、重ね継ぎ・・・・・・・

よく見てみると分かりますが、返し留め、重ね継ぎは単衣物と袷物と違う方法で行います。単衣は、縫い返してあったり重ねてあったりする箇所を目立たなくするために、同じところを縫います。

一方、袷物は、縫い目が一切見えませんので、縫い目の間を縫います。縫い目の間隔も、単衣物と袷物と違います。

運針用布も出てきました。

生地は紅絹(もみ)です。和裁を習い始めに、この紅絹で運針の練習用布を作ります。手触りは普通の着物の裏地と言った感じですが、とても目が詰まっていて、初心者当時は針を何本も折ってしまいました。布に対して針が垂直に入らないと、なかなか縫えないので、練習用の布としては最適です。とても丈夫な布です。

運針用布

紅絹の生地は昔、「お腰」にこの生地が使われていましたが、今ではめっきり見ることが無くなりました。

留めにも色々あります(袖付け、身八ツ口などの留め)

留めにも色々あります(袖付け、身八ツ口などの留め)

袷衣や単衣の着物・長襦袢・羽織などの袖付けや身八ツ口の留めを説明します。

※私たちが行っている仕立て方です。地域によってその呼び方、仕立て方が異なります。ご了承ください。

◆力布

袖付けや身八ツ口は着る時など力が加わるので、補強の意味もあって、私たちは、袷衣も単衣も袖付けや身八ツ口の裏側、手前と反対側に「力布」を付けています。「力布」は約0.8cm正方の小さな布で、素材は胴裏地(白色)を使いますが、絽や紗のものは透けてしまいますので、同色の物や表地の「力布」を使います。表地が絹ならば絹、麻だったら麻の「力布」を付けます。

色々な「力布」

身八ツ口(脇止まり)や袖付けなど、留めから約4cmは半返し縫いまたは縫い返し縫いで、更に補強をしています。

身八ツ口や袖付けの縫い方上の写真は分かりやすいように色を変えて縫っています。

◆かんぬき留め(虫留め)

単衣のきものや長襦袢、単衣の羽織、袷衣・単衣コートの袖付けや身八ツ口、袖口明き、名古屋帯の垂境、袴などにもにかんぬき留めをします。虫がとまっているようなので「虫留め」とも呼ばれているようです。

1.身八ツ口や袖付け、袖口明きなどに、縫い糸を2本渡します。

身八ツ口や袖付けなどに2本縫い糸を渡します。

2.渡っている2本の糸の下を針のメド(穴の空いている方)からくぐらせます。針先からくぐらせると布を引っかけてしまい、寸法を直したり洗い張りの際にかんぬき留めと一緒に布を切ってしまわないための工夫です。

2本の糸の下を針のメドからくぐらせます。

3.更に編んでゆくような感じで、糸を結んでゆきます。

糸を編む様に結んでゆきます。

4.一杯まで結んで完成です。下の写真はちょっと見づらいですが、順序よく糸が並んで結んであればOKです。

一杯まで結んで編み、かんぬき留め(虫留め)の完成です。

◆笹べり(八ツ口・人形)

笹べり(八ツ口・人形とも言われます)

婚礼用貸衣装や仕事用きものなど、かんぬき留め以上に補強する場合は上の写真の様な「笹べり」を付けます。主に袖付け、身八ツ口、袖口、男物の袖付けにも付ける場合があります。「八ツ口」とか「人形」とも呼ばれているようです。

布の性格を考えて(大島の仕立て)

先回のブログに関連した内容です。

袷着物は、表地(きもの地)・胴裏地・八掛と三種類の生地で成り立っています。
胴裏地は糸の太さ、糊の量などいろいろありますが、縮み具合はそれほど大差はありません。
八掛は染めや糸の太さ、織り方も様々で紬の八掛以外は、とても縮むものもあります。
表地は縮緬、お召し、羽二重、紬等など八掛以上に、千差万別で地直しの作業は、布の端で色々試してから行っています。

その中の紬といえば結城紬、白山紬、信州紬などありますが、大島紬は同じ紬絹織物でも織り糸の性質が違い殆ど縮みません。(布の縮み具合:参照)
大島紬を仕立てて時間が経過すると、下の写真のように胴裏地や八掛が縮んだ結果、表側がビリ付き、緩んだ状態になってしまいます。

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布は縮みます(布の縮み具合)

布は縮みます(布の縮み具合)

私たちが縫っている殆どが、絹製のものです。同じ絹物でも織り方によって縮み具合が大きく違います。

例えば、大島紬の織り糸は撚りがなく、縮みません。それに対して縮緬は縮みます。

下の写真は、色無地着物でアイロンを当てただけでとても縮んでしまいました。

色無地着物の縮んだ様子

私たちは仕立てを行う前に、必ず「地直し」を行います。その方法は布地の上に綿製の当て布を広げ細かな霧を吹き、じっくり時間を掛けてアイロンを当てます。

縫っている最中やその後も生地が縮んでしまわないようにするためで、袷着物で数時間掛けて地直しをします。その後、一晩寝かせ、裁断、縫製の作業となります。

以下、どれくらい縮むのかを上記の方法でテストしてみました。(※ほんの一例です。織り方、染め方、糊の具合や製造メーカーによって違いがあります)

物差しの目盛りは1mあたりどのくらい縮んだかを示します。

大島紬は縮んでいません。

八掛は3.2cm

胴裏地は1.1cm

その他にも、測ってみました。

長襦袢地は1.8cm

絽喪服は2.5cm

帯芯は0.4cm

全て1mあたりの縮み具合です。結構、縮みますね。

※著しく幅や長さ、地の目を狂わす場合は、この方法で地直しはいたしません。寸法等を確認して、適した地直し法でアイロンを当てます。

連続する柄(柄の合わせ方1)

連続する柄(柄の合わせ方1)

大島紬の「麻の葉」柄の仕立ての依頼がありました。

反物からの仕立てです。

以下の格子・市松・亀甲など、連続した柄は出来るだけ一つの柄になるように仕立てます。

翁格子

市松

亀甲

裁断前に、身長に合わせ見積もりをし、更に後幅、前幅、衽幅から衿や袖の付く位置などに待ち針を打ち、一つずつ柄を合わせてゆきます。

一反の反物が続いていますので、やり辛いですが、慎重に位置を決めてゆきます。

着られる方の体型、柄の大きさ、反物の長さによっては、どうしても全てが一つにはなりません。

和服裁縫時の大前提として、「仕立て直しが出来ること」です。

衿肩明き以外の大きな切り込みはせず、縫い代は裁ち落としたりはしません。

寸法や体型を無視して柄を合わせることに徹底すればできますが、縫い代の深さや、その差に取り決めがあり

脇なども考慮しないと、着辛いものになってしまいます。

更に、衿が付くところや、衽付けなどは斜めに柄合わせをします。順序は背、上前(左前)の衽付けの柄合わせをし、脇の柄を確認します。

脇の縫い代の深さを測り、前身頃と後身頃の縫い代の差があまりにも多い場合には、衽付けの縫い代の量を加減します。

柄の間隔が違っている場合や斜めに付く箇所は目立つポイント箇所で合わせます。

柄が合うことが確認できたら、裁断します。和服は全く同じものがなく、大島紬などは、反物の長さが短く、裁断は慎重にならざる終えません。

裁断前の柄合わせだけで数時間、または頭をリセットする意味で、改めて翌日、なんてこともあります。

全て縫う箇所を確認しますので、ほんと、時間がかかります。

後身頃

前側(掛衿、上前衽付けの柄を合わせました。袖付けは横段を合わせました)

掛衿:剣先から少し上のポイントで合わせることが出来ました。

今回の麻の葉柄は、背の柄と、上前(左前)衽、掛け衿(共衿)の柄が合いました。

袖付けや、脇はちょっとずれてしまいましたが、これが限界でした。

体型によって柄が合わない場合がありますが、このような連続した柄は、出来るだけ柄を合わせるように心掛けています。

この大島紬の仕立て代は48,000円(税別)~ です。