寸法直しが難しい事例(脇縫い代の切り込み)

以前、単衣着物の身幅を広くする寸法直しの依頼がありました。脇縫い代は、身幅を広げられる幅はありましたが、裾の三つ折りぐけを解いてみると・・・・・(写真は、絽の生地で縫ってみました)

上の写真の様に背や脇、衽の縫い代が切り落とされていました。この状態では裾まで身幅が広がりません(T_T)

切り落としてある所に沿って、裾全部を切り落とす事になります。女物ならばお端折りがあり、多少、身丈が短くなっても構わなければ良いのですが、男物の場合では、対丈(お端折り無し)で着ますので身丈が短くなると、ちょっとスネが見えてしまったり・・都合が悪くなります。身丈直しとなると、内揚げ(腰あたりの縫い込み)があれば、短くなった寸法を内揚げから出し、元の身丈にできますが、当然、衽と衿を外して直さなければなりませんので、結構手間が掛かってしまいます。

裾の仕立て方には様々な方法があります。この様に、重なり部分を切り落としてしまうのは、下の写真の赤枠で囲ってある部分の、裾での脇縫い代の布の厚みを解消し、裾の三つ折りの幅を真っ直ぐ、すっきりと見せるためです。

私は、仕立て直しや寸法直しができるという、和服の最大のメリットが失われてしまいますので、この様な、縫い代を切ってしまう仕立て方は好きではありません。私達は下の写真のように、最低限の切り込みで(縫い目隠しなどの仕立ては、少々深く切り込みを入れますが、切り落としたりはしません。)裾を縫っています。布の厚みは、しっかりと鏝で押さえ込んで仕立てています。

様々な洗い張り品や、直し物の仕事が多くなってきましたが、縫い代の重なっている所を全部切り落としてある物や、鉛筆で標を付けている物、アイロンテープ(裾上げテープ)で縫い代を仮留めしてある物、芯を糊で接着してある物など、私では、ちょっと考えられないような仕立て方をしている着物などがあります。

後々、娘さんが着られるようになど「仕立て直す・寸法を直すことを前提とする」ということが大切だと修業時代、師匠から教えていただきました。「もったいない」という日本文化の中で、リサイクル・リメイク・リフォームができるからこそ、和服は受け継がれてゆくと思います。

袖丈?裄(ゆき)? 正確な裄寸法の測り方

袖丈?裄(ゆき)? 正確な裄寸法の測り方

「袖丈が長いので直していただけますか?」と寸法直しのお電話をいただくことがあります。

和服(きもの・長襦袢・羽織る物:羽織やコートなど)で一番シビアに寸法の差が現れるのは、裄寸法(袖幅・肩幅)です。女物のきものの身丈はお端折りがあるので、多少調節できるなど、融通が効く寸法はありますが、裄寸法(袖幅・肩幅)は数ミリ単位で寸法を操作して、袖口や振りから長襦袢が出ないようにするなど、和服の仕立てでは大変重要な寸法です。

お客様のお話をよく聞いてみると、和裁の寸法で言う「裄:ゆき」が長いとのことです。洋裁の寸法名称(測る場所)と和裁の寸法名称が違っているので、そんなことがよくあります。

洋裁の寸法名称

洋裁の寸法名称

上の図で、袖丈というようにかかれているところは、「裄丈」というような名称の場合もあるようですね。

和裁は、肩幅と袖幅を足した寸法が「裄」となります。

和裁の寸法名称

和裁の寸法名称

裄寸法の測り方によっては、違ってしまします。正確な寸法の測り方は、下の図のように、袖口・振り・身八ツ口をぴったり揃え、衿は、肩山の折山通りにして衿を繰り越し分抜き、身頃を平らにします。袖も袖山の折通りにして平らに置きます。

裄の測り方

測るときには、袖山・肩山を手前に(自分側)に置くと測りやすいです。

きものの裄の測り方

動画を作成しました。ご覧ください。

たまに、下の図のように袖山の袖幅と、振りでの袖幅が違っている場合があります。この様な袖付けの付け方を「扇付け」と言われています。

袖付けの「扇付け」

注意点

注意しなければならないのは、長襦袢の上に着物を着ますので、着物の裄直しをする場合は、長襦袢の袖幅や肩幅、裄の寸法がどのようになっているのか、確認する必要があります。いろいろな仕立て屋さんや呉服屋さんで、長襦袢の控え寸法(着物より控える寸法)は異なりますが、私どもは、裄は着物-1.2cm、袖幅は着物-0.8cm、肩幅は着物-0.4cmで仕立てます。また、長襦袢の生地幅が非常に伸びる場合(着用するときに引っ張りますので)や、単衣の紬などの生地で、長襦袢が着物にくっついてしまう場合、袖口明きが大きい男物の場合など、長襦袢の裄を-2cm程度にする場合があります。

逆に着物の上に着るコートや羽織は、着物の裄(袖幅・肩幅)を広くします。アンサンブルは同時に仕立てるので、着物と羽織の寸法は整合性がありますが、オークションで購入された着物や長襦袢、羽織などは寸法がバラバラなので、注意する必要があります。

羽織(コート)→着物→長襦袢 の順序で裄(袖幅・肩幅)も短くしてゆきます。幅の関係が良くないと、振りから長襦袢が出てしまったりしてしまいます。長襦袢はポルトガル語の「ジュバン」が語源で下着と言う意味です。長襦袢が出てしまうと「みっともない」と言われかねません。ちょっと意味が違いますが・・・・「人の振り見て、我が振り直せ」とも言いますので・・・・(^_^;)ちょっと違う意味ですが・・・・・・