ブログ:和裁屋日記
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子供のきもの⑥(肩腰揚げなど)
これまでに子供物のきものを説明しました。今回は、子供のお祝いに着るきものに施す「揚げ:あげ」について説明します。
以前紹介したように、子供の健やかな成長を願い、様々なお祝いがあります。地方によっても異なりますが、主なお祝い着と肩腰揚げなどは以下のようなものがあります。
・お七夜の祝
生が七日目に行うお祝いで、この日に命名(名前を決める)します。赤ちゃんには、産着を着せる習慣があります。産着(うぶぎ)に揚げはしません。

・お宮詣り
誕生後、初めて氏神様に参拝することを「お宮詣り:おみやまいり」といいます。生後30日前後、あるいは100日目に行うところもあります。この時に着せるのが「宮参り産着」と呼ばれる2枚重ねの掛け着です。この掛け着に揚げはしません。子供を掛け着でくるみ、祖母が抱きかかえ、紐をたすき掛けにして背で結び、紐には狛犬の張り子を付けたりします。この時の2枚重ね掛け着は、三歳のお祝いにも使用できます。

・三歳のお祝い:髪置の祝
主に女の子のお祝いです。この頃から、男女異なる髪型をし始めた儀式がのが始まりです。お宮詣りで使用した2枚重ね掛け着を使用する場合が多いです。

上着はきものに、下着についている朱色の飾り袖を取り、長襦袢として使うことができます。きものも長襦袢も肩腰揚げをし、袖丈が長い場合は袖揚げも行います。掛け着は大名袖なので、丸み(袂丸)を付け袖口明きまで縫い合わせます。紐は紐飾りを取り、約7.5cm幅なので身八ッ口(脇止まり)を紐幅の中心位置に縫い付けます。

長襦袢には半衿を付け、肩腰揚げなどを行い丸みを付けます。帯は軽いしごき程度で、上に被布を着せる方が多いようです。

・五歳のお祝い:袴着の祝
男の子のお祝いです。少年へとうつり初めて袴を着ける儀式で、これ以降は男女別々の衣服を身につける習慣があり、この名残と言われています。五ッ紋付きの羽織と袴を着ます。きものと長襦袢には肩腰揚げ、紐を付け、羽織には肩腰揚げ、袴丈によっては袴揚げをする場合があります。袖は、丸みを付けない角袖とします。

・七歳のお祝い:帯解の祝
女の子のお祝いです。この頃になると、紐付きのきものをやめて、帯を締める儀式で、この名残と言われていますが、きものにも長襦袢にも紐を付ける方は多いです。どちらにも肩腰揚げをする場合がほとんどです。三歳・五歳のお祝いでは、腰揚げの位置は、被布や袴に隠れてしまいますが、七歳のお祝い着は隠れないので、腰揚げの高さによってイメージが変わります。腰揚げは待ち針で仮留めをして全体を見ながら位置を決めます。

・十三詣り
関西で主に女の子のお祝いです。地方によっては男子に褌(ふんどし)を贈る褌祝や、女子に腰巻きを贈る腰巻祝などがあり大人へと成長する区切りの儀式として行われ始めたそうです。本裁ちのきものに肩揚げのみ行い、お端折りをしてきます。ちなみに、舞子さんのきものにも肩揚げをします。
・揚げの種類と方法

・腰揚げ
身丈とは、きものの出来上がった長さのことで、着丈とは、きものを着た状態の長さのことです。着丈は首の付け根から床までの長さを基準として体型などによって加減したり、子供の着丈は身長×0.8で計算することもでき、身丈―着丈が腰揚げ分となります。
腰揚げとは、腰あたりで腰上げ分を摘んで縫いとじすることをいいます。
女の子の三歳のお祝いや、男の子五歳のお祝いでは、被布を着たり袴で腰揚げ摘み上がりの「わ」の位置は見えませんが、女の子七歳のお祝いでは、腰上げの位置によってかわいらしさが変わります。昔は比較的腰上げの「わ」の位置が低かったようですが、最近では大人びた着方で腰上げの「わ」の位置が高いようです。
腰揚げ分の量があまりにも多く腰上げの位置が低くなってしまう場合は、二重揚げをします。

・肩揚げの方法
肩幅の中心を摘まみ山として肩揚げをします。肩揚げをする寸法は実際に測ったり、身長×0.4+2cmで計算することもできます。

・袖揚げの方法
着丈(腰揚げが出来上がった寸法)-袖幅/2より長い場合、袖口より4cm程度の位置で袖揚げをします。

参考資料
- 社団法人日本和裁士会発行 新版和服裁縫下巻
- 社団法人全日本きもの振興会編 きもの文化検定公式教本Ⅰきものの基本
子供のきもの⑤(仕立て例)
子供のきものの裁断方法を説明してきました。先回にも説明したように、様々な裁ち合わせ方法があり、大人物からの仕立て替えや余った布などを使う場合もあり、限られた布の長さで、工夫して、裁ち合わせをして、極力無駄を省いた裁断方法ともいえます。
大人用反物一反で、四ッ身アンサンブル(着物と羽織)
例えば、着尺地(きじゃくじ:きもの用反物)は約12mありますが、半反では一ッ身きものと袖無し羽織ができます。また、一反で元禄袖の四ッ身のきものと羽織(アンサンブル)が作れます。
子供のアンサンブル裁ち
・半反物(5.7m)で一ッ身きもの(元禄袖・筒袖)と袖無し羽織(またはちゃんちゃんこなど)

・一反使い四ッ身きものと羽織(元禄袖・筒袖)

子供の和服は寸法の決まりはあまりありません。身丈は子供の着丈(きものを着た長さ)に1尺(約38cm)加え、裄は2寸5分(約10cm)加えて作り、肩腰揚げを繰り返して、数年間着ていました。
最後に、お子様の身長から、着丈と裄寸法を割り出し、肩腰揚げをします。袖揚げは、引きずってしまう場合に行います。いずれも子供らしい揚げの位置で行います。詳しくは、次回に紹介します。


先日、お祖母様が着た付下げのきものと長襦袢を、7歳用のお祝い着に仕立て替えしました。
身頃は、背と衽付けの柄を合わせ、内揚げの位置で裁ち切り、つなぎ合わせています。
背縫いを深くして、肩に柄が多く出るようにしました。
※注 きものも長襦袢も、大人用に戻すことはできません。

子供用きもの(右肩の柄)
胸の柄も多く出るようにしました。
袖丈は裁ち切りいっぱいで60cm程にできました。

子供用着物(前)
子供きものの種類④(四ッ身~六ッ身)
・四ッ身
後身頃の背から衿を取り、前身頃を摘んで衽が付いているように縫い目を立てるのが特徴です。5~6歳頃まで着ることができます。現在では子供物全般のきものはこの方法で作られています。

四ッ身女児きもの(長袖)
○四ッ身きもの 並幅物約5.7m
身丈約125cm・袖丈約32cm(元禄袖)


長着以外の四ッ身としては四ッ身羽織、四ッ身被布などがあります。

四ッ身女児羽織(元禄袖)

四ッ身男児羽織(筒袖)

四ッ身被布長袖

四ッ身被布元禄袖
・五ッ身裁ち(大四ッ身裁ち・別衽裁ち)
五ッ身裁ちは前身頃より衿を取り、衽は半幅の布を使って付けます。大人物に近い寸法に作ることができます。
○五ッ身きもの(大四ッ身裁ち・別衽裁ち) 並幅物7.6~8m
満7歳の標準身丈134cm・袖丈36cm(元禄袖)


・六ッ身裁ち(大人用の裁断方法)
六ッ身裁ちは本裁ち(大人用きもの)と同じ方法で裁断し、寸法を子供用紙仕立てる方法で、8歳以上の子供物に用いられる裁断方です。
○六ッ身きもの(大人用の裁断法) 並幅物約12m


四ッ身長袖着物から六ッ身(大人用振袖)までを並べてみると・・・・・

四ッ身祝い着から六ッ身(大人用振袖)を並べてみると
子供きものの種類③(二ッ身・三ッ身)
今回は、今ではもう仕立てられなくなってしまった、二ッ身から三ッ身までを紹介します。
・二ッ身裁ち
原則、裏表区別が付かない両面物を使用し、背縫いがつきます。トータルの幅は一ッ身と変わらない(狭くなる?)のと、前幅と衽幅のバランスが悪く、今ではほとんど作られることがありません。
○二ッ身きもの 並幅物3.8~4.5m ※両面物に限る
身丈約95cm・袖丈約49cm

標準的な寸法の、お宮詣り初着(お祝い着)と二ッ身、初着(袖通し)を重ねてみると、こんな風になります。お宮詣り初着は3歳でも使われるため身丈は長く仕立てます。

・三ッ身
昔、数え年3歳のお祝い(お宮詣り)に初めて背縫いのあるきものを着せる習慣があり、三ッ身を着ましたが、着られる期間が短く、今では用いられなくなりました。三ッ身も原則、両面物を使います。片面物でも作れますが、余分な残布が出てしまい経済的とはいえません。着た時の格好は二ッ身よりもバランスがよいです。
○三ッ身きもの 並幅物4.5~5.7m ※両面物に限る
身丈約100cm・袖丈約57cm(長袖)


上記の裁断図より袖を取った残りで身頃竹の三倍でできることから三ッ身という名が付きました。
長着以外の三ッ身の和服として袖無し三ッ身被布などがあります。

三歳児用 袖無し被布
先回、一ッ身を紹介しましたが、お宮詣りなどに使われるきもので、まだ需要があります。しかし、二ッ身と三ッ身は、現在、殆ど作られることはありません。その理由として、一ッ身から三ッ身を標準寸法で作った場合、一ッ身は後身頃中心から衽の先までで、47.5cm、二ッ身は背縫いから衽先までが47cm、三ッ身は48.5cmで、トータルの幅も一ッ身と同じような幅です。

標準的な寸法(長袖)のきものを重ねて見るとこんな風になり

一ッ身から三ッ身を並べてみるとこんな風になります。

二ッ身や三ッ身は、階段状に複雑に裁断するので難しいことや、お祝い着ではお宮詣りの一ッ身宮参り初着と、その他では四ッ身が殆どとなりました。二ッ身も三ッ身は着る期間が短いのと、お祝い以外で一般の方は着られないため、ほとんど作られていません。
子供きものの種類②(一ッ身)
子供物の裁ち方について
子供物は一ッ身~六ッ身まであると説明しましたが、その名称は、裁断方法の名称です。(ちゃんと表すと○○○裁ちです)反物を裁断する時に袖を取った残りが、断ち切る身頃の長さの何倍取るかによって、三ッ身は3倍、四ッ身は4倍・・・というように名称が変わります。(一ッ身・二ッ身は別です)
子供物は、大人物からの仕立て替えや余った布などを使う場合もあり、限られた布の長さで、工夫して裁ち合わせをして、極力無駄を省いた裁断方法ともいえます。
※以下の裁断図の布地の幅は普通、並幅で約36cmとしています。
※裁断図の実践は裁断する箇所・点線は折り山です。
・一ッ身裁ち
後身頃に背縫いを付けず、1枚の布幅いっぱい使って後身頃とするのが特徴です。前身頃と衽は反物の1/2幅を使います。およそ2歳まで着ることができます。
一ッ身は生まれてばかりの時に肌襦袢や半襦袢、産着(手通し) 、宮参り産着(宮参り掛け着)、歩き始め肩腰揚げをして着る一ッ身長着(ながぎ=きもの)、一ッ身袖無し羽織(ちゃんちゃんこ・伝知)、一ッ身袖無し被布などがあります。

使用する布の長さは、短い物で約3m使う産着(手通し)から、長く布を使う宮詣り産着大名袖(袷で裏地別)は8m使い、様々な裁断方法があります。(共紐で長い袖で仕立てる約8mから関西地方では9.6mと布を長く使うところもあるようです)
以下の裁断図は、反物の長さが短い順に並べました。
①産着(手通し) 並幅物3m(別途紐布が必要)

身丈65~70cm・袖丈約19cm(平袖)

②産着(手通し) 並幅物3.4~3.8m(別途紐布が必要)
身丈68~76cm・袖丈19~23cm(平袖)

③一ッ身きもの 並幅物4m(別途紐布が必要)

身丈85~90cm・袖丈約25cm(元禄・筒袖)

④一ッ身祝着大名袖(共八掛・共紐) 並幅物8~8.2m

身丈95~115cm・袖丈約57cm

一ッ身祝い着の宮参り初着(宮参り掛着)には、幅約7.5cmの紐に紐飾りが付きます。また、紋が入ってないものには、糸で背守りを付けるところもあります。

市販されている一ッ身宮参り初着には、下着と飾り袖が付いているものが殆どで、後の女児三歳のお祝いには、赤い飾り袖を取り外して、下着には半衿を掛けて長襦袢として使います。

⑤関西地方の一ッ身祝着大名袖(共八掛・共紐) 並幅物約9.7m
身丈約117cm・袖丈64cm

参考書籍
- 愛知県和裁教授連盟 発行「わさい」
- (社)日本和裁士会編 「新版和服裁縫」
- (社)日本和裁士会技術指導部・技術研究部編「和裁教科書」
- (社)日本和裁士会編「知っておきたい和裁の知識」