女物きものの寸法について①

今回から、女物きものの寸法について解説します。きものの下には、長襦袢を着ます。きものの上には羽織やコートを着ます。それらの中心となる寸法が、きものの寸法です。長襦袢の寸法はきものの寸法より少し控えたり、羽織やコートの寸法ではきものより長くしたり、きもの以外の和服の寸法を決めるのに重要な寸法となります。一度、着やすいきもの寸法が決まれば、長襦袢とか羽織なども、その寸法を基に体型やきものにフィットしたものが作れます。

呉服店からの伝票(指示書)に書かれている寸法は、下記の寸法全て指示されているものではなく、身丈や裄などの大まかなものです。身長やヒップなどが、身丈や前幅・後幅などが合っているのか確認の計算をし、その他の細かな寸法を決めます。

きものを縫製するときに必要な基本的な寸法は以下になります。

  • 身丈(みたけ)
  • 袖丈(そでたけ)
  • 裄(ゆき)
  • 袖幅(そではば)
  • 肩幅(かたはば)
  • 袖口明き(そでくちあき)
  • 丸み(まるみ)
  • 袖付け(そでつけ)
  • 身八ッ口(みやつくち)
  • 前幅(まえはば)
  • 後幅(うしろはば)
  • 抱幅(だきはば)
  • 衽幅(おくみはば)
  • 合褄幅(あいづまはば)
  • 衽下がり(おくみさがり)
  • 褄下(つました)
  • 繰越(くりこし)
  • 衿幅(えりはば)

また、上記寸法以外に、私達は見積もりに必要な寸法や、柄を合わせる時や、標を付けるのに必要な下記のような寸法を計算します。

  • 標身丈(しるしみたけ)
  • 衿丈(えりたけ)
  • 剣先合標(けんさきあいじるし)
  • 流れ寸法(ながれすんぽう)
  • 前身頃の斜め寸法
    など・・・・

今まで公開したものも含めて、おさらいになるかもしれませんが、少しずつ解説していこうと思います。

今でも残る和服の鯨尺

戦後、日本では世界基準に合わせて、長さでは尺、重さでは貫など昔から使われていた単位:尺貫法が廃止され計量法(メートル法表示)に切り替えられました。以後、公式な書面等では尺貫法での表記は禁止となり、使うと罰金の対象となっています。 しかしながら、木造の住宅建築などではいまだに広く使われています。和裁も同様で・・・・

親が和服裁縫業を営んでいたにもかかわらず、私は着物のことも寸法もちんぷんかんぷんのまま、40数年前に名古屋で修行を始めました。今でも、呉服店では和服仕立ての伝票には鯨尺(くじらじゃく)で表されていますが、修業先ではセンチメートルで仕立てていました。入所当時は、呉服店の伝票寸法の鯨寸法からセンチメートルに換算表を見ながら自分の寸法票に書き写していました。
慣れてくると、いつもの寸法は、換算表を見ずに寸法票にcmで記入出来るようになります。例えば女物きものの袖口は殆どの場合6寸と決まっていますが、センチメートルでは22.7cm、袖丈1尺3寸は49.2cmというように覚えてしまいます。

○決まっていた並寸法
尾張地方の昔、女物きものの並寸法といえば、
身丈4尺(151.5cm)
裄1尺6寸5分(62.5cm)
袖幅8寸5分(32.2cm)
後幅7寸5分(28.4cm)
前幅6寸(22.7cm)
褄下2尺(75.8cm)
繰越5分(1.8cm)
といった具合に決まっていました。(上記の寸法は女性で身長150cm、ヒップが90cm位の方でしょうか)

昔、三河出身の徳川家康とその家臣達は、江戸にその寸法を持ち込んだため、尾張から江戸にかけての関東圏では並寸法が後幅7寸5分、前幅6寸でした。一方京都大阪を中心とする関西圏では、女物並寸法は尾張三河より広く、後幅が8寸になっていました。上方は何でも豪華で贅沢な傾向にあったようです。
今では、オーダーメイドの仕立てなどではヒップやバストなどから細かく割り出す方法で縫製しています。

○メリット・デメリット
センチメートルのメリットは、最小メモリが1mmで細かな寸法が表現できることです。鯨の最小メモリは1分で約4mm。5mmの表現は、1分強としか表現できません。

一方、鯨のメリットは、年を取ってきて分かったのですが、1mmのメモリが見辛くなり、1分の方がはっきり見えるといったところでしょうか。私は、ケースバイケースで両方を使っています。

尾張はけちくさい?
関西圏は何かと豪華ということですが、昔は赤ちゃんの着物から、そうであったようです。生まれてから、初めて氏神様に参拝するお宮詣り。その時に着る宮参り初着(うぶぎ)は、尾張三河地方は布を節約して、一ッ身と決まっていますが、関西圏では布を多く使う四ッ身が主流だそうです。
畳みの大きさでも広いのは関西間、中くらいの広さは中京間、関東間といった順になります。畳の縁(へり)1つ分くらい違うそうです。現在では、極端なことは出来ませんが、アパートや建て売り住宅で、ちょっと狭くても「この部屋は○畳にしてくれ」といわれると、等分して作ってしまう場合もあるそうです。


そんな尾張三河人はけちくさいかもしれませんが、日頃は倹約して、お金を使うときには、ぱーっと使います。とくに尾張名古屋地方は、結婚には旦那が新居を建て(器を持ち)、中身(家電や家具)は嫁さん持ちといわれ、新居に荷物を入れる際には、新婦の実家から新婦の実家から何台かのトラックに家具や家電を載せ、紅白の幕を掛けて運びました。何台のトラックか?が、ステイタスでした。結婚式当日には、近所に人を集めて、縁側で花嫁姿を披露し、菓子撒きをしてから式場へと向かいました。

寸法直しについて①

譲ってもらったきものや、古着屋さんやネットから購入したきものなど、寸法直しの依頼が多くなっています。今回から、寸法直しについて説明します。第一回は裄直しについてです。

○裄直し

寸法直しで一番多いのは「裄直し」です。裄を長くするというのがほとんどです。和服の裄は、身長×0.4+2cmを基準とします。お母様のきものであったり、ネットや古着屋さんで購入されたものだったり、きもの以外にもコートであったり、いろいろあります。

裄直しで注意するポイントはいくつかあります。

・縫い代があるのか?

 長くする場合、単衣は裏に返せば縫い代の量が分かりますが、袷衣の場合は、指で触って縫い代の量を測り、およその長さを割り出します。一番確実なのは袖付けの縫い目を解き、表生地、裏生地の縫い代の状態(切り込みが入ってないかどうかなど)確認をし、直せるのかどうかを判断します。

また、振袖や訪問着など袖着けに柄がある場合は、布端まで柄があるのか、袖幅と肩幅で直した場合、柄がずれるので、袖を作り直した方がよいのかなど、確認する必要があります。

・肩幅と袖幅のバランス

 肩幅だけとか、袖幅だけ直すという場合がありますが、裄寸法は裄=袖幅+肩幅で、割り振りバランスは、袖幅≧肩幅です。袖幅と肩幅が同寸、あるいは袖幅の方を数センチ広くします。例えば袖幅が異様に細かったりしないように気を付けます。

・変色の有無

紫や濃い緑色のきものは、時間が経つと色焼け(薄く変色)してしまいます。寸法を長くしたり広げたりする場合は、変色の程度を確認します。また、表側に色チャコを使った標付けがされている場合もあります。

振り側に表から色チャコ

ひどく色焼けしている場合や色チャコなどの具合を見て、直すのを中止するか、そのまま直すか、色掛け(色の修正)やシミ抜きをしてから直すのか一度お客様と相談をします。

・長襦袢は?

浴衣以外のきものの下には長襦袢を着用します。私どもでは、

きものの裄寸法―1.2cm=長襦袢の裄寸法

きものの袖幅寸法―0.8cm=長襦袢の袖幅寸法

きものの肩幅寸法―0.4cm=長襦袢の肩幅寸法

を基準にします。(きものの生地が滑りが悪い生地で、長襦袢の生地が大しぼ縮緬など、とても伸びたりする場合、袖幅を上記以上に控えることがあります)

袖の丸みは着物と同寸、または小さな丸みでは丸みを付けない角袖の場合もあります。

長襦袢控え寸法

長襦袢の裄が着物の裄より長い場合、袖口から長襦袢が出てしまいます。また、トータルの裄が合っていても極端に長襦袢の肩幅が狭く、袖幅が広い場合、袖振りから長襦袢が出てしまいます。裄直しをする場合、基準となるきものの袖幅・肩幅寸法が必要です。体型が変わっても、裄寸法はほとんど変わりません。和服を着慣れている方はいつもの裄寸法が決まっていますが、初心者の方はご自分の寸法をしっかりと決めて、その寸法を基本の寸法にして、これから着られる長襦袢や着物、羽織などの寸法を揃えた方がよいでしょう。

・布幅いっぱい以上の裄直し

布幅一杯以上の裄にする場合、袖に共布で割り布を入れて長くする方法があります。

以前、踊りをされている方の出来上がり袷衣きものの裄直しをしたことがあります。身長の割に長い裄で、踊りで袖口を掴みたいとのことです。裄が72cm、袖幅が約38cmです。反物の幅は約36cmで縫い代が必要なので布幅いっぱいで縫ってもできません。提案させていただいたのが、掛衿を使う方法です。

掛衿は本衿の上に縫い付けてある布で2枚重ねになっています。今回、掛衿の長さが袖丈以上だったので、衿を解き掛衿を使って袖付け側(振り側)に割布として接ぎ足しました。

袖に割布入れ(表側)

裏袖は袖口側に裏地を継ぎ足し、袖を作り直し、裄を直しました。本衿は掛衿の長さで摘み、同じような厚みの布を裏側で重ねます。

袖に割布入れ(裏側)

それ以上長くする裄直しでは、肩幅にも布を継いで長くする方法もあります。いずれも表生地は共布がないとできません。

袖と肩に割布入れ(表側)

テレビなどできものを着られている方の映像を見る時に、ついつい見てしまうのがきものの掛衿など衿元、半えりの出具合、袖口、振りなどです。袖口や振りから長襦袢が出ていると「寸法が合っていないんだな」と、残念な気持ちになってしまいますね。逆に言えば、そのあたりを気を付ければ着姿はきれいになると思います。

子供のきもの⑥(肩腰揚げなど)

これまでに子供物のきものを説明しました。今回は、子供のお祝いに着るきものに施す「揚げ:あげ」について説明します。

以前紹介したように、子供の健やかな成長を願い、様々なお祝いがあります。地方によっても異なりますが、主なお祝い着と肩腰揚げなどは以下のようなものがあります。

・お七夜の祝

生が七日目に行うお祝いで、この日に命名(名前を決める)します。赤ちゃんには、産着を着せる習慣があります。産着(うぶぎ)に揚げはしません。

・お宮詣り

誕生後、初めて氏神様に参拝することを「お宮詣り:おみやまいり」といいます。生後30日前後、あるいは100日目に行うところもあります。この時に着せるのが「宮参り産着」と呼ばれる2枚重ねの掛け着です。この掛け着に揚げはしません。子供を掛け着でくるみ、祖母が抱きかかえ、紐をたすき掛けにして背で結び、紐には狛犬の張り子を付けたりします。この時の2枚重ね掛け着は、三歳のお祝いにも使用できます。

・三歳のお祝い:髪置の祝

主に女の子のお祝いです。この頃から、男女異なる髪型をし始めた儀式がのが始まりです。お宮詣りで使用した2枚重ね掛け着を使用する場合が多いです。

上着はきものに、下着についている朱色の飾り袖を取り、長襦袢として使うことができます。きものも長襦袢も肩腰揚げをし、袖丈が長い場合は袖揚げも行います。掛け着は大名袖なので、丸み(袂丸)を付け袖口明きまで縫い合わせます。紐は紐飾りを取り、約7.5cm幅なので身八ッ口(脇止まり)を紐幅の中心位置に縫い付けます。

長襦袢には半衿を付け、肩腰揚げなどを行い丸みを付けます。帯は軽いしごき程度で、上に被布を着せる方が多いようです。

・五歳のお祝い:袴着の祝

男の子のお祝いです。少年へとうつり初めて袴を着ける儀式で、これ以降は男女別々の衣服を身につける習慣があり、この名残と言われています。五ッ紋付きの羽織と袴を着ます。きものと長襦袢には肩腰揚げ、紐を付け、羽織には肩腰揚げ、袴丈によっては袴揚げをする場合があります。袖は、丸みを付けない角袖とします。

・七歳のお祝い:帯解の祝

女の子のお祝いです。この頃になると、紐付きのきものをやめて、帯を締める儀式で、この名残と言われていますが、きものにも長襦袢にも紐を付ける方は多いです。どちらにも肩腰揚げをする場合がほとんどです。三歳・五歳のお祝いでは、腰揚げの位置は、被布や袴に隠れてしまいますが、七歳のお祝い着は隠れないので、腰揚げの高さによってイメージが変わります。腰揚げは待ち針で仮留めをして全体を見ながら位置を決めます。

・十三詣り

関西で主に女の子のお祝いです。地方によっては男子に褌(ふんどし)を贈る褌祝や、女子に腰巻きを贈る腰巻祝などがあり大人へと成長する区切りの儀式として行われ始めたそうです。本裁ちのきものに肩揚げのみ行い、お端折りをしてきます。ちなみに、舞子さんのきものにも肩揚げをします。

・揚げの種類と方法

・腰揚げ

身丈とは、きものの出来上がった長さのことで、着丈とは、きものを着た状態の長さのことです。着丈は首の付け根から床までの長さを基準として体型などによって加減したり、子供の着丈は身長×0.8で計算することもでき、身丈―着丈が腰揚げ分となります。

腰揚げとは、腰あたりで腰上げ分を摘んで縫いとじすることをいいます。

女の子の三歳のお祝いや、男の子五歳のお祝いでは、被布を着たり袴で腰揚げ摘み上がりの「わ」の位置は見えませんが、女の子七歳のお祝いでは、腰上げの位置によってかわいらしさが変わります。昔は比較的腰上げの「わ」の位置が低かったようですが、最近では大人びた着方で腰上げの「わ」の位置が高いようです。

腰揚げ分の量があまりにも多く腰上げの位置が低くなってしまう場合は、二重揚げをします。

・肩揚げの方法

肩幅の中心を摘まみ山として肩揚げをします。肩揚げをする寸法は実際に測ったり、身長×0.4+2cmで計算することもできます。

・袖揚げの方法

着丈(腰揚げが出来上がった寸法)-袖幅/2より長い場合、袖口より4cm程度の位置で袖揚げをします。

参考資料

  • 社団法人日本和裁士会発行 新版和服裁縫下巻
  • 社団法人全日本きもの振興会編 きもの文化検定公式教本Ⅰきものの基本 

繰越について③

様々な着付け方法があることは聞いていますが、仕立て屋として、背縫いは背骨に沿わせ、腰骨に脇を合わせることが基本となり、後幅、前幅などの寸法が構成され、体型に合わせた寸法を決めることができます。

「きものは風呂敷のようなもの」と言われた方がいます。風呂敷はスイカのような物も一升瓶のような物も綺麗に包むことができます。きものも多少体型の違った方でも綺麗に着付けができます。特に女性はお端折りがあり、多少、融通が効き、長襦袢の衿に着物の衿を沿わせることができますが、あまりにも繰り越し寸法などが違いすぎると、ねじった着方となり、衿周り・胸回りにシワが出てしまいそうですね。基本としては脇や背の位置を決め、衣紋の抜き加減を決めます。それの繰り越し寸法は、普通体型の方は2cm程度(上がり3cm程度)で、少し肩に厚みがある方は3cm程度(上がり4cm程度)、最大で4cm位です。

最近、着物を仕事で着る方が訪れ、若い頃の着物を着てみると衿がガバガバに空いてしまうという相談を受けました。長襦袢は俗に言う「うそつき」の上着と下着に分かれている2ピースの物で、長襦袢の衣紋の抜き加減は自分の着やすいようにできます。きものの衿が浮いてしまうと仰りました。その方は、ご年配で多少お太りですが、年を追う毎に背中が丸くなり、いつものように着ると衣紋の抜き加減が多くなってしまいました。私どもで、繰越直しを少なくして改善されました。

繰越について②

・繰り越しとは

上図のように平らな場所で前身頃と後身頃の裾を合わせ、山になるところが肩山で、肩山からどれくらい深く衿が付いているかというのが繰り越し寸法です。明治時代頃までは、繰り越しは付いていなかったと言われています。

衿肩明きでもそうでしたが、繰り越し寸法も2種類の寸法表示があります。私のところでは呉服店の仕立てをする際の寸法伝票には、肩山から衿肩明きまでの距離が示されていてます。出来上がりの繰り越しの距離は衿付け縫い代(1cm強)を加えた寸法となります。(衿肩明きについてはここから)

もう一つの寸法表示は出来上がりの寸法で示す場合がありますので、出来上がり寸法か、そうではないのかを確認する必要があります。

また、下図のように衿肩明きを肩山で切り、衿付け縫い代を1cm以上深くする「付け込み」という方法もあります。

現在、女物には繰り越しを付けますが、標準体の男物や子供物には付けません。なので、下図のように繰り越し無しといっても、1cm強肩山より深く衿が付いています。

男性で肥満体の方などは、0.8cm程度から繰越を付ける場合があります。

繰り越しについて①

今から30年以上も前、私が和服裁縫の修行中、納品を任され名古屋の栄や駅周辺などへ、行っていました。仕事柄、どうしても着物姿が目に留まります。夕方の納品時には出勤前でしょうか、俗に言うスナックのママさんなどの「お水系」の方などがよく歩いていました。その姿は髪のセットや化粧以外にも、着物の着方、特に衣紋の抜き加減で、およそ区別できました。ぐーっと衿を後ろに抜いて、背中が見えていたように思えます。それに対して当時の一般の方、特に若い方の着方は現在よりも、それほど衿を抜かず、初々しく、きちっとした清楚な感じでした。着物の柄も当然ですが、着方によっていろんな事が表現できた時代であった様な気がします。

現在では、着付けの仕方が変わってきたのか、自由勝手に着ているのか、着方でその人を想像するのにわけがわかりません。先日、テレビで○○コーディネーター?と称する方の着物姿が目に留まりました。寸法が体型に合っていないのか、無理矢理衿を抜きすぎているのか、左右の掛け衿先が見え、背縫いが背中心に合っていないのか、掛け衿先の高さが揃っていない、ねじれたような残念な着方をしていました。テレビ局の衣装担当の方がちょっと直してあげたりしないのかな?誰も何も言わないのかなって思います。

四六時中、着物姿はどうしても目に留まってしまいます。テレビでは、さすがに演歌歌手の方は、いつも綺麗に着られていますし、落語家さんでも、きっちり寸法が合っているような着物を着ています。中には中古品なのか既製品なのか、寸法が全く合っていない着方をしている方も、目に留まってしまいます。

自由に和服を楽しむことは、私はとても嬉しく思います。でも、「いろんな意味があるよ!」って知ってもらえれば、もっと嬉しいです。

次回からは繰り越しについて細かく説明します。

紋の位置について

紋の位置について

和服に紋を入れる場合があります。一ッ紋・三ッ紋・五ッ紋。数が多いほど格が高いものとされています。一ッ紋は背に1つ、三ッ紋は背と袖に、五ッ紋は背と袖と抱き(前身頃)に付けます。

結婚式での新郎の紋付き羽織袴姿、喪服、留袖などには五ッ紋を入れます。紋の種類には日向紋やかげ紋、縫い紋等があり、家紋ではなく、草花などをあしらった、刺繍のお洒落な伊達紋を無地の振袖などに入れる方もみえます。

紋の位置の目安は、男女大人用着物・四ッ身着物(4~5歳ぐらいまでの着物)・一ッ身(1歳~2歳までの着物)の3種類に別けられていて、それぞれの紋の上端までの距離です。

男女大人用着物

背紋下がり … 衿付けから約6cm

袖紋下がり … 袖山から約7.5cm

抱き(前)紋下がり … 肩山から約15cm

四ッ身着物

背紋下がり … 衿付けから約4.5cm

袖紋下がり … 袖山から約6.5cm

抱き(前)紋下がり … 肩山から約13cm

一ッ身

背紋下がり … 衿付けから約4cm

袖紋下がり … 袖山から約6cm

抱き(前)紋下がり … 肩山から約11cm

と、されています。

仕立ての見積もりをする時に、背紋の位置から身頃の四ツ山位置(衿肩明きを切る位置)を決め、裁ち切る身頃丈を決めます。背紋の上端から衿付け縫い代を加えた寸法で四ッ山を決め、抱き紋までの距離を測り、左右の抱き紋下がりが合っているのかを確認します。また、背の紋中心を測り、背縫い代の深さを決めます。

背と抱き紋下がり

無地などの仕立てで紋入れからする場合には、予め見積もりをして位置を決めます。注意しなければならないのは、繰り越しが大きい方(衣紋を多く抜く方)や肩の厚みが極端にある方は、背紋下がりの位置や肩山からの抱き紋の距離を考慮しないと、着たときに不自然になってしまいます。

紋の大きさは、女物は直径2cm、男物は直径3.8cmとされていますが、伊達紋などは大きな紋が入ります。

寸法直しが難しい事例(脇縫い代の切り込み)

以前、単衣着物の身幅を広くする寸法直しの依頼がありました。脇縫い代は、身幅を広げられる幅はありましたが、裾の三つ折りぐけを解いてみると・・・・・(写真は、絽の生地で縫ってみました)

上の写真の様に背や脇、衽の縫い代が切り落とされていました。この状態では裾まで身幅が広がりません(T_T)

切り落としてある所に沿って、裾全部を切り落とす事になります。女物ならばお端折りがあり、多少、身丈が短くなっても構わなければ良いのですが、男物の場合では、対丈(お端折り無し)で着ますので身丈が短くなると、ちょっとスネが見えてしまったり・・都合が悪くなります。身丈直しとなると、内揚げ(腰あたりの縫い込み)があれば、短くなった寸法を内揚げから出し、元の身丈にできますが、当然、衽と衿を外して直さなければなりませんので、結構手間が掛かってしまいます。

裾の仕立て方には様々な方法があります。この様に、重なり部分を切り落としてしまうのは、下の写真の赤枠で囲ってある部分の、裾での脇縫い代の布の厚みを解消し、裾の三つ折りの幅を真っ直ぐ、すっきりと見せるためです。

私は、仕立て直しや寸法直しができるという、和服の最大のメリットが失われてしまいますので、この様な、縫い代を切ってしまう仕立て方は好きではありません。私達は下の写真のように、最低限の切り込みで(縫い目隠しなどの仕立ては、少々深く切り込みを入れますが、切り落としたりはしません。)裾を縫っています。布の厚みは、しっかりと鏝で押さえ込んで仕立てています。

様々な洗い張り品や、直し物の仕事が多くなってきましたが、縫い代の重なっている所を全部切り落としてある物や、鉛筆で標を付けている物、アイロンテープ(裾上げテープ)で縫い代を仮留めしてある物、芯を糊で接着してある物など、私では、ちょっと考えられないような仕立て方をしている着物などがあります。

後々、娘さんが着られるようになど「仕立て直す・寸法を直すことを前提とする」ということが大切だと修業時代、師匠から教えていただきました。「もったいない」という日本文化の中で、リサイクル・リメイク・リフォームができるからこそ、和服は受け継がれてゆくと思います。

袖丈?裄(ゆき)? 正確な裄寸法の測り方

袖丈?裄(ゆき)? 正確な裄寸法の測り方

「袖丈が長いので直していただけますか?」と寸法直しのお電話をいただくことがあります。

和服(きもの・長襦袢・羽織る物:羽織やコートなど)で一番シビアに寸法の差が現れるのは、裄寸法(袖幅・肩幅)です。女物のきものの身丈はお端折りがあるので、多少調節できるなど、融通が効く寸法はありますが、裄寸法(袖幅・肩幅)は数ミリ単位で寸法を操作して、袖口や振りから長襦袢が出ないようにするなど、和服の仕立てでは大変重要な寸法です。

お客様のお話をよく聞いてみると、和裁の寸法で言う「裄:ゆき」が長いとのことです。洋裁の寸法名称(測る場所)と和裁の寸法名称が違っているので、そんなことがよくあります。

洋裁の寸法名称

洋裁の寸法名称

上の図で、袖丈というようにかかれているところは、「裄丈」というような名称の場合もあるようですね。

和裁は、肩幅と袖幅を足した寸法が「裄」となります。

和裁の寸法名称

和裁の寸法名称

裄寸法の測り方によっては、違ってしまします。正確な寸法の測り方は、下の図のように、袖口・振り・身八ツ口をぴったり揃え、衿は、肩山の折山通りにして衿を繰り越し分抜き、身頃を平らにします。袖も袖山の折通りにして平らに置きます。

裄の測り方

測るときには、袖山・肩山を手前に(自分側)に置くと測りやすいです。

きものの裄の測り方

動画を作成しました。ご覧ください。

たまに、下の図のように袖山の袖幅と、振りでの袖幅が違っている場合があります。この様な袖付けの付け方を「扇付け」と言われています。

袖付けの「扇付け」

注意点

注意しなければならないのは、長襦袢の上に着物を着ますので、着物の裄直しをする場合は、長襦袢の袖幅や肩幅、裄の寸法がどのようになっているのか、確認する必要があります。いろいろな仕立て屋さんや呉服屋さんで、長襦袢の控え寸法(着物より控える寸法)は異なりますが、私どもは、裄は着物-1.2cm、袖幅は着物-0.8cm、肩幅は着物-0.4cmで仕立てます。また、長襦袢の生地幅が非常に伸びる場合(着用するときに引っ張りますので)や、単衣の紬などの生地で、長襦袢が着物にくっついてしまう場合、袖口明きが大きい男物の場合など、長襦袢の裄を-2cm程度にする場合があります。

逆に着物の上に着るコートや羽織は、着物の裄(袖幅・肩幅)を広くします。アンサンブルは同時に仕立てるので、着物と羽織の寸法は整合性がありますが、オークションで購入された着物や長襦袢、羽織などは寸法がバラバラなので、注意する必要があります。

羽織(コート)→着物→長襦袢 の順序で裄(袖幅・肩幅)も短くしてゆきます。幅の関係が良くないと、振りから長襦袢が出てしまったりしてしまいます。長襦袢はポルトガル語の「ジュバン」が語源で下着と言う意味です。長襦袢が出てしまうと「みっともない」と言われかねません。ちょっと意味が違いますが・・・・「人の振り見て、我が振り直せ」とも言いますので・・・・(^_^;)ちょっと違う意味ですが・・・・・・